22 / 206
出会いの夜
21
しおりを挟む
その直後、衝撃を受ける。
項垂れていた私の眼前にあるガラス器、そこになにも入っていなかったからだ。
花のような形をした透明の食器には、スプーンで掻き集められたクリーム状の形跡が僅かに残っているだけだった。
「な……中身が消えた? 一体誰が……!?」
「お前がきっちり全部食べていたぞ」
隣人の冷静な報告に、自分自身が一番驚いていた。
メガホン級の沼スウィーツを、ろくに咀嚼もせず飲むように平らげてしまった。
我慢しているものを、食べてはいけない時間に、やってはいけない速度で腹に収める。
この背徳感はなんなのだろう。
昔一度だけ味わったことがあるような。
私が記憶の扉を叩く前に、前方から聞こえる笑い声に顔を上げた。
「あはは、そんな、泣くほど喜んでもらえるとは」
猫宮さんの笑顔は、初夏の風のようだった。
「なっ……泣いてません!」
「え~? 瞳が潤んでるのは泣いてるうちに入りますよ」
「これはちょっと、勢い余って食べすぎたせいで、涙目になっただけです!」
「玉ねぎも入ってないのに?」
人差し指の背を口元に当てながら、クスクスと音を立てる。
なんなの、この人……いや、この猫?
優しいんだか意地悪なんだかわからない。
「面白いですね……ええと、君の名前は?」
「私は――」
流れで答えを返しそうになり、急いで口をつぐんだ。
項垂れていた私の眼前にあるガラス器、そこになにも入っていなかったからだ。
花のような形をした透明の食器には、スプーンで掻き集められたクリーム状の形跡が僅かに残っているだけだった。
「な……中身が消えた? 一体誰が……!?」
「お前がきっちり全部食べていたぞ」
隣人の冷静な報告に、自分自身が一番驚いていた。
メガホン級の沼スウィーツを、ろくに咀嚼もせず飲むように平らげてしまった。
我慢しているものを、食べてはいけない時間に、やってはいけない速度で腹に収める。
この背徳感はなんなのだろう。
昔一度だけ味わったことがあるような。
私が記憶の扉を叩く前に、前方から聞こえる笑い声に顔を上げた。
「あはは、そんな、泣くほど喜んでもらえるとは」
猫宮さんの笑顔は、初夏の風のようだった。
「なっ……泣いてません!」
「え~? 瞳が潤んでるのは泣いてるうちに入りますよ」
「これはちょっと、勢い余って食べすぎたせいで、涙目になっただけです!」
「玉ねぎも入ってないのに?」
人差し指の背を口元に当てながら、クスクスと音を立てる。
なんなの、この人……いや、この猫?
優しいんだか意地悪なんだかわからない。
「面白いですね……ええと、君の名前は?」
「私は――」
流れで答えを返しそうになり、急いで口をつぐんだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる