猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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出会いの夜

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「わあっ、本当ですか、嬉しいなぁ!」
「い、いや、今のは」
「ただいま記憶をお持ち帰りの方に干支の置き物をプレゼントしてまーす、好きなのを選んでくださいね!」
「はっ? え? え、ええとのぷれぜんとっ?」

 誇らしげに両手を広げ、内側のカウンターに並べられた干支の置き物を示す彼。
 当然ながら展開についていけない私は、なんとも間抜けな文字を連ねる。
 今の私はどんな顔をしているのだろう。きっと職場……いや、プライベート全部合わせたって、見せたことのない表情だ。
 行儀良く整列した陶器の獣たちは少し崩れた個性的な形をしており、気味の悪さと愛嬌が混在している。キモ可愛い、とはこのことだろうか。
 左から数えて十二個……十二支なのだから当たり前だが、どこか物足りなさを感じる私がいた。

「……猫はないんですね」

 ぽつりとこぼれた言葉は波紋のように広がってゆく。
 特に猫が好きなわけではない。
 犬派だとか猫派だとか、そんな議論自体どうでもよくなるほど、動物に興味がなかった。
 今までの私の人生に不要だったもの。関わりを持たなければ、好きか嫌いかの判断すら不可能なのだ。
 だからこんな台詞、ここに来なければ生まれなかった。これが猫を思わせる彼を意識していないと言えるだろうか。

「すみません、変なこと言って――」

 居た堪れなくなった私は、訂正しようとカウンターから視線を戻す。
 すると珍しく口を結んでいた彼は、丸い目をさらに大きくして頬を朱に染めていた。
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