猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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出会いの夜

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 そんな言葉をこぼした私の脳裏には、今しがた経験した奇妙な事柄の数々が思い起こされていた。
 流れるように滑らかに、しかし鮮明に浮かび上がる光景。
 だけどそれはあまりに美しく、現実離れした嘘の出来事にも思えた。
 ふと、トートバッグの中に左手を入れ、目当てのものを探ってみる。
 すぐに見つかった長財布は、間違いなく私の前に存在していた。
 持ち上げてみると厚さも重さも変わらない。
 あの店を出る前、会計しようとした時に消えてなくなったはずなのに。
 用意されたいつも通りに、夢を見ていたような気分になる。
 本当にあの不思議な出来事が自分の身に起きたのだろうか。
 ぼんやり浮かぶ疑念と不安、ほんの少しの空虚感をごまかすように、財布の金具に手をかけた。
 中身もすべて元通りなのだろうか。
 とりあえず確認してみようかと、ファスナーを開こうとした右手が目に入る。
 ――リーン。
 視覚と聴覚で悟る、夢旅行の思い出、明日への繋がり。
 腕時計をしているのは左手だ。だから反対側にはなにもないはずなのに。
 蜂蜜色の淡い光がくるりとそこを囲んでいる。
 小指の先っぽみたいな、小さな小さなビー玉のように丸くて、下にハート型の切り込みが入った飾り。
 金の糸が編み込まれてできた、鈴のついたブレスレット式のお守り。
 だから別れ際、私の右手を握ったのか。
 どうやらあのお方は、人を驚かせるのが好きらしい。
 
「狐じゃなく、猫につままれた……かな?」

 あたたかな灯りが導く優しい世界、もうしばらく化かされていよう。
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