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奇妙な仲間たち

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 就業が開始してすぐ、部長に言われた先方に電話をかけた。
 会話の雰囲気から強い関心を感じ取ったため、今日にでも伺うことができると言うと、驚きながらも喜ばれた。
 大手銀行のシステム、契約を取れたらかなりの利益に繋がる。その分狙っている他のシステム会社も多いだろう。
 鉄は熱いうちに打て。悠長に構えている暇はない。一秒でも早く、馳せ参じなければ。
 こういった緊急事態に備えて、常日頃からある程度余裕を持って予定を立てている。
 今回もそのおかげで、どうにか時間を作ることができた。
 資料をまとめ、部下たちに指示を出すと、昼食を取るのも忘れてオフィスを離れた。
 
 特急の電車で一駅行けば、目的のビルが窓越しに見えてくる。
 平日、昼下がりの鉄道はサラリーマンふうの男性が多い。エアコンの涼は一時の安らぎ、背広にネクタイを着用して、灼熱地獄へと出陣する。
 クールビズとは言っても、取引先へ赴く時の正装は変わらない。歴史ある優良企業相手なら尚更だろう。
 私も普段、通勤時には脱いでいるジャケットを羽織り、しっかり前ボタンを留めて姿勢を正して歩く。
 整備の行き渡ったコンクリートの地面、洒落たカフェに雑貨屋、テレビにもよく映る街並み。
 頭の中でやり取りをシミュレーションしながら、真っ直ぐ高いビルへ向かう。
 仕事についての会話なら簡単だ。決まったことを順番に、丁寧に説明すればいいだけ。 
 数式に当てはめて応用すれば済む。
 足し算から掛け算へ、因数分解や展開のよう。
 だから人付き合いよりもずっと楽ちんなのだ。
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