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奇妙な仲間たち

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 その後約束の時間ピッタリに担当部署の課長がやって来ると、三人で会議室へ移動した。
 パソコンでの資料や映像を用いて実際に稼働している例を披露しながら、このプランの利点だけでなく欠点も伝える。上手いことばかりでごまかすとあとで文句を言われたり、結局契約破棄にされては意味がないからだ。
 人付き合いの苦手な私が信頼第一なんて笑ってしまうが、仕事の一貫だと思えばやりこなせる。
 その熱意が通じたのか、話はとんとん拍子に進んだ。
 イレギュラーな社長がいたせいか、相手の課長がガチガチに緊張していてかわいそうなくらいだった。一切口出しせず、ひたすらにこにこ眺めているだけだったけれど、それはそれで応えたのかもしれない。
 腹の虫も鳴き忘れる、昼食抜きの午後三時。
 話を終えた私はノートパソコンや資料をトートバッグにしまい、片付けをしていた。
 課長は書類を小脇に抱え、ドアのそばで待機している。
 
「先に行ってください、私は彼女と話があるので」

 社長に促された彼は、軽く頭を下げると、磨りガラスの出入り口から立ち去った。
 仕事の件は課長が一旦引き取り、他の担当者とも相談の上、正式に返事をするという話で終わった。とはいえ社長がゴーサインを出しているため、形だけの作業になりそうだ。
 先ほど面識を持ったばかりの相手に、話とはなんだろう?
 焦茶色の長テーブルで荷物をまとめた私を待っていたのは、後ろ手を組み真っ直ぐに立つ紳士だった。老、をつけるにはまだ早い。五十代の風格を漂わせながら若々しさも併せ持つ。
 小ぢんまりとした無機質な空間で、彼は静かに口を開いた。

「あの店には、いつから?」

 やや掠れたような渋い声が沈黙の幕を破る。
 たったその一言が、私を現実と夢の境目に連れていく。
 戸惑いはあれど、驚愕はしない。
 それは心のどこかが、予感をキャッチしていた証拠だった。
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