上 下
53 / 206
奇妙な仲間たち

16

しおりを挟む
「あ、あの、店というのは」

 ドクドクと脈を弾ませながら、念のために聞いてみる。
 すると彼は穏やかな表情のまま答える。
 瞳の球体を横長に細めながら。
 ――やっぱり、見間違いじゃなかった。

「猫宮くんの店です」

 その名前を耳にした時、足が宙を彷徨う感覚に駆られた。
 仕事で使用されるありきたりな室内が、光の滲む闇夜へと変化するようだ。
 日常に飛び込む蜂蜜色の輝き。
 あの人はここに来てもいないのに、私の視野を容易く奪う。

「ど、どうして……?」

 少し変わった雰囲気の人だとは思った。
 けれどそれだけでは、納得いかない部分が多々ある。
 なぜ私が料理店の客だとわかったのか。
 そして彼は、何者なのか。
 密室で向かい合った相手に、警戒心を持って問いかけた。

「その様子ではまだ行き慣れていないようですね、音がするんです」
「音……?」

 拾った単語を確かめるように復唱すると、彼は小さな頷きを見せた。

「はい、リーンと、店に入る時と同じ不思議な音色、それで客だとわかるんです」

 こんな言葉だけで理解に及ぶ私は、他の人からすれば普通ではないのだろう。
 どうやら彼らにしか聞こえない鈴の音で、料理店と関わりがある人間だとわかるようだ。
 彼は背後に回していた腕を前に出すと、右手を顎に添え、その肘を左手で支え考える姿勢を取った。

「しかし記憶の土産は十二支の置き物だったはず、なのにあなたは珍しい腕飾りをしていますね」

 腕飾り……聞き慣れない言い方だが、なにを指しているかは明白だった。
 私の右手首を彩る金の糸。丸い鈴。 
 出会った第一声の「珍しいもの」は、このことだったに違いない。
 そっと、存在を確認するように、左手でお守りを包むように触れた。
しおりを挟む

処理中です...