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奇妙な仲間たち

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「そう言う卯瑠香うるかはしょっちゅう来てんのかよ?」
「繁ちゃんよりは来てるわよ、だからこのお店のことはそれなりにわかってるわ」
「なっ……てめえ、俺が知らねえ間に……!」

 急に血相を変えた虎柄の彼がズンズン大股開きで進み、卯瑠香と呼んだ彼女に接近する。
 
「おい、一体どこの誰と――」

 こめかみに血管を浮かばせる彼の言葉を制したのは、鼻先をツンッと弾く白い指先だった。
 
「安心して、あたしの本命は繁ちゃんだけだ、か、ら」

 熱っぽい瞳で吐息混じりに言われた彼は、ピタッと動きを止めたあと真っ赤な顔をして目を泳がせた。

「……ま、まあ、そうだな、卯瑠香は俺にゾッコンだからな!」

 後ろから彼らの様子を眺めていた私には、もはや隠しようがない獣の証が示されていた。
 ニッカポッカの穴から綺麗に抜け出た細長い尻尾、しま模様が床屋のくるくるみたいにご機嫌に回っている。
 対するウサギ耳の彼女は小鉢の料理を箸で口に運び、美味しそうに頬張っている。「やっぱり猫ちゃんのきんぴらニンジンは最高だわ」なんて、のんきなことを言いながら。
 どう見てもウサギと虎。物理的な力は虎が圧倒的勝利にも関わらず、精神面、いわゆるパワーバランスはウサギに軍配が上がるようだ。
 食物連鎖などの自然原理も、彼らには干渉できないらしい。
 縛りなど関係なく、好き勝手しているようにしか見えない。
 なんて自由なんだろう、と傍観者に成り下がっている私に、猫宮さんから声がかかる。

「あちら十二支の仲間で、寅年の繁寅しげとらに、卯年の卯瑠香だよ」

 ――でしょうね。と、黙して頷いた。
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