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奇妙な仲間たち

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「私のお母さん、肩書きとか世間体とか、すごく気にする人で、お父さんとよく子育てのことで喧嘩してました。私が小学生に上がった頃にお父さんが出ていって、それきり」

 どれだけ話し合う時間があっても、どちらかが聞く耳を持たなければ無意味だ。
 自分が望む結果がゴールだと決めつけてはいけない。
 もつれた紐を解くのが難しいからといって、切り離してしまうのはもったいない。
 本当に互いが大切なら、時間がかかっても、いつか解けるのではないかと思う。
 一人ではなく、二人なら。
 
「離婚って、もう決まったことなんですか? 離婚届渡されたとか?」
「いや、それはまだ……してほしいという話だけだが」

 左手の薬指に光る指輪。
 未練ばかりで反省している彼を見たら、奥さんはどう感じるのだろう。

「部長ってたまに女性差別みたいな、引っかかること言いますから、奥さんなら長年積もったものがあるのかもしれませんね」
「えっ? わ、わしがか?」
「嫁の貰い手がないとか、女は泣けば済むとか」

 部長はサーッと青ざめた顔で「そ、それは」と言葉に詰まった。思い当たる節があったと、少し自覚が芽生えたようだ。

「部長って奥さんをなんだと思ってるんですか? 家政婦とか介護士とか?」
「そんなはずないだろうっ、パートナーとして、一人の人間として見てるつもりだ。定年したら二人で旅行もしたいなと……」

 本人がいるわけでもないのに焦って取り繕う部長が、かわいそうで憎めなかった。
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