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奇妙な仲間たち

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「娘の世話も、親の介護も、文句を言わずにやってくれていたんだ。だから上手く回っていると、うちの家庭は大丈夫だと思っていたんだが……ある日プチリとね。離婚してほしいと。嫁さんからしたら、急じゃなかったんだろうなぁ」

 ぽつりぽつり、つぶやきの連なりが肉じゃがにこぼれては消えてゆく。
 ――ここに来る人って、みんな……。
 人生の岐路とも言える部長の悩みに、自分の中に根づいた迷いを重ねる。
 なにも言わないからって、満足しているとは限らない。そんなことわかっていても、私にはどうしようもない。
 教科書に載っている問題なら大抵こなせる自信はあるし、仕事の内容なら頭の隅々まで叩き込んである。
 けれど正解のない話は難しく、こんな時には困り果ててしまう。
 チラッと助けを求める視線は届いているはずなのに、猫宮さんはわざとらしく口笛を吹いて明後日の方向を見ている。
 自分でなんとかしなさい、ということか。
 本当に、優しいんだか厳しいんだか。
 だけど猫宮さんは前に言ってたっけ。
 答えは人の数だけある、とか――。

「……私の親も離婚してるんです」

 決まった答えがないなら、自分なりに応じるしかない。
 探し出した共通点に、部長は腫れぼったい瞼を持ち上げ私を見た。

「……理由を聞いても?」
「突っ込まれて嫌なこと自分から提供しませんよ」

 苦笑いしながら筒型のグラスを口に運ぶ。
 シャワシュワ弾ける泡と甘くて刺激的な味。
 子供の頃飲みたくて仕方がなかった黒いジュースは、付き合いで飲むお酒より美味しかった。
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