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白昼の衝撃

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「猫宮さん……私、ちゃんと、考えてみます。母のこと……逃げずに、自分とも向き合ってみます」

 私の言葉に猫宮さんは、一瞬驚いたような、戸惑うような表情を見せた。
 忙しなく長いまつ毛を瞬かせ、あちこちに視線を泳がせている。

「……あ、ああー、うん。でも、まだ、そんなに急いで決断しなくてもいいと思うけどね」
「……猫宮さん?」

 初めて見る歯切れの悪い猫宮さんに、首を傾げて疑問符を投げかけた。
 すると猫宮さんは宙を彷徨っていた瞳を中央に戻し、窺うように私を見た。

「ほら、ちづちゃんまだ若いんだし、ゆっくり……ゆっくり、考えたら、いいんじゃない、かな……?」 
 
 なぜか不安げに、探るような眼差しで口にする猫宮さんに、私は二、三度パチパチ瞼を開閉させた。

「……はい、そうします」

 小さな返事を聞くと、猫宮さんは安堵したように穏やかな表情に戻った。
 この時の私はまだ、彼の全貌を知らなかった。深い部分に触れようとすらしていなかった。

「それにしても猫宮さん、ずーっとずーっとって、今何歳なんですか?」
「やだなぁ、人外に年齢を聞くなんて、ちづちゃんのエッチ~」
「ええっ、なんでそうなるんですか!?」

 両手で胸を隠しながら身を引く素振りをする猫宮さんに、焦って大きな声を出した。
 あはは、と無邪気に笑う猫宮さんはとっても楽しそうで。からかわれるのは好きじゃないのに、この人にならいいな、と思わされてしまう。
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