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お礼

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 室内が白く照らされると、改めて彼女を見据える。
 毎朝うるさいほど鳴いている酉年は、今は人の姿で私のベッド脇に行儀よく正座をしていた。
 
「……ええと、白鳥さん……でした、よね?」

 私が尋ねると、白鳥さんがコクリと頷く。

「あの……私になにかご用ですか? いきなり家に上がり込まれると困るんですが」

 彼女に話が通じるのかわからないけれど、とりあえず率直な言葉を投げかけてみる。
 すると白鳥さんは、膝上で作った拳を小刻みに震わせた。
 そして突如、滝のような涙を流したのだ。 
 何事かとギョッとした私は、彼女の見開いた瞳を慌てながら眺めるしかなかった。

「ワ……ワタシ、あなたが、羨ましくテ」

 相変わらず片言のような、機械音のような、ぎこちない話し方をする。
 その声が並べた文字の意味を、理解するまで時間を要した。

「私が羨ましいって……どうして?」

 あまりに突拍子のないことに、茫然としながら疑問を返す。
 すると白鳥さんは、自身の右手首を左人差し指でトントンと示して見せた。

「それを見た時、猫様の特別だとわかったのデ」
 
 白鳥さんが言う「それ」とは、私の右手首を囲んだお守りのことだ。
 授けた主の髪や瞳の色に近い、黄金色の鈴がついた腕飾り。
 そういえば白鳥さんは、初対面の開口一番「いいもの、つけていますネ」とこれを褒めていた。
 未國さんもわかったのだ。同じ十二支である彼女も、猫宮さんからもらったものだと気づいても不思議ではない。
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