猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~

碧野葉菜

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「僕は音楽には詳しいが、料理には精通していない」
「そんな固く考えないで、一緒に作ってみる? 秀ちゃんもニンジン好きでしょ?」

 ダイニングテーブルに並べられた食材を前に思い悩む秀馬さんに、卯瑠香さんが声をかけた。
 秀馬さんは真顔のままだが、嫌がる素振りもなく誘いに応じる。
 草食同士、気が合うのだろうか。
 卯瑠香さんが猫宮さんのお店に他の人と来ていた説があったけれど、もしやそのお相手って――。
 私がそんなことを考えているうちに、繁寅さんが噛みつかんばかりの勢いで秀馬さんを威嚇していた。
 その光景を見た牛坐さんが鼻で笑う。

「くだらない争いをしていないで、さっさと各自料理にかかれ。猫宮に振る舞うのは今夜なのだぞ」

 正論を述べる牛坐さんにぐりんと顔ごと視線をくれる寅年。三白眼が完璧にガンを飛ばしている。

「てめえらは焼売と餃子でも作りやがれ、この家畜コンビ!」

 それはつまり、秀馬だけにシュウマイで、牛坐だけにギョウザ……ということか。
 なるほど、名前に中華らしい共通点が。
 と感心している場合ではない。
 ニンジンを手に取り眺めていた秀馬さんも、スープの煮込み途中の牛坐さんもこれには黙っていなかった。

「君のような筋肉バカに言われたくない」
「我らの知力、今こそ見せつける時」
「んだと、やんのかコラァ!!」

 馬、牛、虎が激突する……姿が一瞬映った。
 当然目の錯覚だ。
 一人暮らしの部屋に大人数が集まり、ただでさえ窮屈なのに暑苦しさがオーバーヒートする。

「いい加減にしなさーーーーい!!」

 恋をすると人は成長すると聞いたことがあるけれど、あれは本当かもしれない。
 最初あんなに怖がっていた猛獣にも怒鳴れるくらい強くなった。
 こんな好き勝手なメンバーたちで、果たしてまともな品が出来上がるのだろうか――。
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