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お礼

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「さあ食え! 俺様のが一番うめえぞ!」
「繁ちゃんったら、猫ちゃんに食べてほしくて仕方がないのよ。なんだかんだ好きなんだから」

 横から顔を出した卯瑠香さんに口を挟まれた繁寅さんは「別に好きじゃねえ!」と真っ赤な顔で言い放った。
 けれどそのあと気まずそうに目を逸らしながら「ま、まあ、同じネコ科だしな」と付け足した。

「なんていうか、こう……繁寅らしい料理だね」
「どういう意味だこら」
「褒めてるんだよ。ありがたくいただくね」

 にこりと微笑む猫宮さんに、繁寅さんが照れくさそうに鼻先を人差し指で擦ろうとした時だった。
 他の待て状態だった十二支たちが、一斉に自身の料理を手に猫宮さんの前に詰めかけた。
 キャロットピザに野菜スープ、カレーにグラタン、餃子に焼売。よくうちの狭いキッチンで作れたものだと感心するほど、有名どころのメニューが一通り揃っていた。

「あの、猫宮さん……」

 私が一歩踏み出し声をかけると、猫宮さんはすぐに視線をくれる。

「酉年の彼女も……参加しているんです。以前のことを反省しているようなので……入れてあげることはできませんか?」

 猫宮さんの目がパチパチと瞬く。
 そして僅かな沈黙のあと、猫宮さんは少し困ったように優しげな笑顔と答えを漏らした。

「……ちづちゃんに頼まれたら仕方ないな、どうぞ」

 この店は猫宮さんの気持ちでできている。
 猫宮さんが受け入れ態勢になることで、ようやく出禁が解かれ、もう一人の来客が許された。
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