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お礼

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「なんだか、逆に猫宮さんに気を使わせてしまったような……」
「はい、ちづちゃんはここね」

 私の杞憂など聞く耳も持たず、猫宮さんは再び腰を下ろすと、自分の横の席を手のひらでポンポン叩いた。
 牛坐さんと白鳥さんの視線が痛い気もするけれど、お言葉に甘えて隣に座らせてもらうことにした。

「誰かの料理を食べるなんて昔ぶりだけど、いいものだね」
「……きっと、猫宮さんなら、そう言ってくれると思ってました」

 猫宮さんの力があれば、好きな食べ物なんて出し放題だろう。
 それでもあえて手間をかけて準備をしたのは、猫宮さんに真心が伝わると信じたから。
 そんなことを考えながらご機嫌な彼の横顔を盗み見ていると……ふと、後ろに視線を感じた。
 猫宮さんがいる反対側、振り向いたそばには少年と幼女が立っていた。
 私が猫宮さんを労いたいと言った時、一番に賛成してくれた二人だった。
 
「……すごい料理」

 クラスでもモテるに違いない。そう思わせる涼しげな目元をした少年が、半ばあきれたような声でつぶやいた。
 その言葉の矛先は、私の前のテーブルに置かれた食事に向けられていた。
 いつも通り、瞬きする間に猫宮さんが用意したもの。
 私の頭に近いサイズをしたバケツ型の容器。その内側から立ち込める独特の濃い匂いは、お世辞にも身体にいいとは言えない。

「……ご、ごめんね、絶対真似しないで」

 猫宮さんに提供された品は身体に溜まらないからいいけれど、子供の教育上よくなかったかと思い、申し訳なさに身を縮める。
 いい大人になってカップ麺を食べたい欲が溢れていて恥ずかしい。
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