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お礼
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「ずっと前に言ったはずだけど。いっぱい食べる君が好き、って」
確かに、それは言われたような気がするけれども。
え……ならあれは、猫宮さんなりの告白、だったの?
「……り、リップサービスで、お客様なら誰にでも言っているのかと思ってました」
白い肌を青く染め、猫宮さんはガーンという擬音がピッタリくる様子で愕然としていた。
「なんなの、ちづちゃん、天然なの。僕はホストじゃないんだから、そんなことしないってば」
あからさまにしょぼんと肩を落とす猫宮さんに、とんでもない失礼をしてしまったのではと焦る。
「ごっ、ごめんなさい! あのっ、私、恋愛経験がなくて、よくわかってなくて……!」
今、私の顔色は恐らく青と赤を繰り返しているだろう。
猫宮さんはそろりと顔を上げると、申し訳なさそうに眉を下げながら笑った。
「僕こそごめんね。もっとちゃんと言うべきだった。こんなに長く生きてるのに恥ずかしいよ」
「そ、そんな」
「ねえ、ちづちゃん」
背筋を伸ばした猫宮さんが、改めて私と向き合う。
暖色の深い瞳が、迷いなく私を映していた。
「僕はちづちゃんに会って初めて、自分の運命を呪ったよ。ちづちゃんがどんなに辛い目に遭っていても、助けに行くことができない。僕にはなにもできやしない、なんてちっぽけな存在なんだろうって」
猫宮さんは「それから一つ、謝らなきゃいけないことが」と付け足した。
以前私が営業時間外に店に来た時、僕はちづちゃんを諭せなかった。ちづちゃんが答えを出そうとしていたのに、むしろそれを止めてしまった、と。
あの時、猫宮さんが言い淀んでいた理由が、今ならわかる。
私たちを繋いでいるのは「迷い」だから――。
確かに、それは言われたような気がするけれども。
え……ならあれは、猫宮さんなりの告白、だったの?
「……り、リップサービスで、お客様なら誰にでも言っているのかと思ってました」
白い肌を青く染め、猫宮さんはガーンという擬音がピッタリくる様子で愕然としていた。
「なんなの、ちづちゃん、天然なの。僕はホストじゃないんだから、そんなことしないってば」
あからさまにしょぼんと肩を落とす猫宮さんに、とんでもない失礼をしてしまったのではと焦る。
「ごっ、ごめんなさい! あのっ、私、恋愛経験がなくて、よくわかってなくて……!」
今、私の顔色は恐らく青と赤を繰り返しているだろう。
猫宮さんはそろりと顔を上げると、申し訳なさそうに眉を下げながら笑った。
「僕こそごめんね。もっとちゃんと言うべきだった。こんなに長く生きてるのに恥ずかしいよ」
「そ、そんな」
「ねえ、ちづちゃん」
背筋を伸ばした猫宮さんが、改めて私と向き合う。
暖色の深い瞳が、迷いなく私を映していた。
「僕はちづちゃんに会って初めて、自分の運命を呪ったよ。ちづちゃんがどんなに辛い目に遭っていても、助けに行くことができない。僕にはなにもできやしない、なんてちっぽけな存在なんだろうって」
猫宮さんは「それから一つ、謝らなきゃいけないことが」と付け足した。
以前私が営業時間外に店に来た時、僕はちづちゃんを諭せなかった。ちづちゃんが答えを出そうとしていたのに、むしろそれを止めてしまった、と。
あの時、猫宮さんが言い淀んでいた理由が、今ならわかる。
私たちを繋いでいるのは「迷い」だから――。
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