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導きの時
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――なんてこともあったなぁ。
新居に引っ越した私は、そんなことを考えていた。
小さな段ボールがいくつか。中身を出して想いを馳せるような品物の数もない。
生活に必要なもの、最低限のものばかり。
前の家ではそうだった。
高級マンションと呼ばれる類の砦を抜けて、私がやって来たのは1LDKの中古アパート。
なにに虚勢を張っていたのか、以前の家を選んだ時の気持ちなど、今はもう思い出せないくらいだ。
プライドを捨てたら身軽になって、本当に大切なものが見えてきた。
一人暮らしには十分な広さと設備、白黒だけではなく、少し色味を出して、家具やカーテンを新調した。
無駄とも呼べる可愛らしいインテリア、そんなものも集めるようになった。
片隅には、小ぢんまりとした母の仏壇。
食事の管理表は、もう書いていない。
そんな場所が、私の今日からの住処。
最後の段ボールを開いた、その端に、拳大の置き物が二つ。
これが最近で一番不思議なことかもしれない。
「買った記憶、ないんだけどなぁ……」
身に覚えのない、金色の招き猫。
右耳に鈴がついている上に、片手に抱いた小判に『宮』の文字が入っている。
ネットで検索してもまったくヒットしない。
それからもう一つは、鶴の置き物。
気づけば前の家で、招き猫の横に寄り添うように置かれていた。
奇妙なのに、捨てる気にはならず、つい新居まで持ってきてしまった。
なんとなく縁起がいい気がする、なんて、現金だな。
だって、この猫の目が、あまりに綺麗だったから――。
「さてと、片付け片付け」
つがいのような猫と鶴をローテーブルに飾り、うんと伸びをするともう一度荷物整理に戻った。
新居に引っ越した私は、そんなことを考えていた。
小さな段ボールがいくつか。中身を出して想いを馳せるような品物の数もない。
生活に必要なもの、最低限のものばかり。
前の家ではそうだった。
高級マンションと呼ばれる類の砦を抜けて、私がやって来たのは1LDKの中古アパート。
なにに虚勢を張っていたのか、以前の家を選んだ時の気持ちなど、今はもう思い出せないくらいだ。
プライドを捨てたら身軽になって、本当に大切なものが見えてきた。
一人暮らしには十分な広さと設備、白黒だけではなく、少し色味を出して、家具やカーテンを新調した。
無駄とも呼べる可愛らしいインテリア、そんなものも集めるようになった。
片隅には、小ぢんまりとした母の仏壇。
食事の管理表は、もう書いていない。
そんな場所が、私の今日からの住処。
最後の段ボールを開いた、その端に、拳大の置き物が二つ。
これが最近で一番不思議なことかもしれない。
「買った記憶、ないんだけどなぁ……」
身に覚えのない、金色の招き猫。
右耳に鈴がついている上に、片手に抱いた小判に『宮』の文字が入っている。
ネットで検索してもまったくヒットしない。
それからもう一つは、鶴の置き物。
気づけば前の家で、招き猫の横に寄り添うように置かれていた。
奇妙なのに、捨てる気にはならず、つい新居まで持ってきてしまった。
なんとなく縁起がいい気がする、なんて、現金だな。
だって、この猫の目が、あまりに綺麗だったから――。
「さてと、片付け片付け」
つがいのような猫と鶴をローテーブルに飾り、うんと伸びをするともう一度荷物整理に戻った。
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