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小夜曲(セレナーデ)
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しばしの沈黙の後、気まずそうな顔をした男は、頭を掻きながら背中を向けて去っていった。ナンパの撃退方法が斬新すぎるけど、ざまあみろと思ったんも否定できん。
「……春歌、お前、もうちょっと言い方ってもんが」
「拓人のくせに私を待たすからでしょ」
つまり、春歌がナンパに遭ったんは、俺が遅刻したせいやと?
いや、約束の時間は守れてるし、そもそも拓人のくせにってなんや。さっきの台詞といい、突っ込みたい部分が多すぎて頭がついていかん。あれ、でも、春歌の言うことがほんまなら、柳瀬とも――?
いや、過度な期待はよそう。誘いを断るための、嘘も方便かもしれん。
「ごめん、まさか春歌のが早いとは思わんかった」
謝罪しながら心を落ち着かせ、改めて目の前の春歌を見つめる。
くすんだ桜色のAラインのワンピース。前ボタンはきっちり首元までしまっていて、ノースリーブから白い二の腕が伸びている。脹脛まである丈が、ミニよりも上品さを演出している。ツバが大きめの帽子に、ラインストーンがのった白いサンダル、服と同じ色の爪も、全部似合っていて、褒める場所に困る。
まだ十五歳やのに、ここまで大人っぽい装いが様になる子も珍しいやろう。真夏に暖色系は暑苦しいイメージがあったけど、春歌のスッキリした体と涼しい目鼻立ちのおかげで華やかさだけが際立つ。久しぶりに見た春色に、懐かしさを覚えた。
「ピンクの服、珍しいな、ずっと水色とかが多かったから」
春歌の私服や小物は、気づけば青系ばかりになっていた。学校のカバンにつけたマスコットや、スマホも水色で、今日のハンドバッグもそう。必ず身につけるか持ち歩いている、よほどこの色が好きらしい。
「……拓人が私のイメージ、ピンクって言うから」
「え? なんて?」
俯きがちに小声で言われて、内容を拾いきれんかった。そんな俺に、春歌はキッと睨みを利かすと「知らない!」と言って顔を背けて歩き出した。
なにかまずいことをしたんか、まったく心当たりがない俺は、春歌の名前を呼びながら後を追いかけた。
「……春歌、お前、もうちょっと言い方ってもんが」
「拓人のくせに私を待たすからでしょ」
つまり、春歌がナンパに遭ったんは、俺が遅刻したせいやと?
いや、約束の時間は守れてるし、そもそも拓人のくせにってなんや。さっきの台詞といい、突っ込みたい部分が多すぎて頭がついていかん。あれ、でも、春歌の言うことがほんまなら、柳瀬とも――?
いや、過度な期待はよそう。誘いを断るための、嘘も方便かもしれん。
「ごめん、まさか春歌のが早いとは思わんかった」
謝罪しながら心を落ち着かせ、改めて目の前の春歌を見つめる。
くすんだ桜色のAラインのワンピース。前ボタンはきっちり首元までしまっていて、ノースリーブから白い二の腕が伸びている。脹脛まである丈が、ミニよりも上品さを演出している。ツバが大きめの帽子に、ラインストーンがのった白いサンダル、服と同じ色の爪も、全部似合っていて、褒める場所に困る。
まだ十五歳やのに、ここまで大人っぽい装いが様になる子も珍しいやろう。真夏に暖色系は暑苦しいイメージがあったけど、春歌のスッキリした体と涼しい目鼻立ちのおかげで華やかさだけが際立つ。久しぶりに見た春色に、懐かしさを覚えた。
「ピンクの服、珍しいな、ずっと水色とかが多かったから」
春歌の私服や小物は、気づけば青系ばかりになっていた。学校のカバンにつけたマスコットや、スマホも水色で、今日のハンドバッグもそう。必ず身につけるか持ち歩いている、よほどこの色が好きらしい。
「……拓人が私のイメージ、ピンクって言うから」
「え? なんて?」
俯きがちに小声で言われて、内容を拾いきれんかった。そんな俺に、春歌はキッと睨みを利かすと「知らない!」と言って顔を背けて歩き出した。
なにかまずいことをしたんか、まったく心当たりがない俺は、春歌の名前を呼びながら後を追いかけた。
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