蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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出逢い

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 摩訶不思議な出来事に困惑するいろりに、蛇珀は掌から手鏡を出すとそれを見せた。
 そこでいろりが見たのは、小さな白蛇になった自身の姿だった。
 そう。いろりは蛇珀に身体を交換されてしまったのである。

「へ、蛇神様、これは一体……!?」
「俺はお前に興味を持った。だから明日一日お前になって生活を楽しむ」
「――え……ええっ!?」

 これにはさすがのいろりも驚愕したが、蛇なのでただ身体をくねらせて焦るしかできなかった。

 三百年生きて初めて出会った無垢な心。それを持つ人間はどれほど満たされた暮らしを送っているのか、蛇珀はそれを確かめたかったのだ。

「あ、興味って言ってもほんの少しだけだからな、鳩の涙程度だから調子に乗るんじゃねえぞ!」
「それをおっしゃるなら、雀の涙では……」
「うるせえ、学問の神じゃねえんだからいいんだよそんな細かいことは。この蛇珀様が人間如きの身体を使ってやろうってんだからありがたく思えよ。じゃあ俺は寝る、おやすみ!」
「へ、蛇神様ぁ!!」

 困惑するいろりを尻目に、蛇珀は素早く布団に潜り込むとあっという間に眠ってしまった。
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