蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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出逢い

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 翌朝、蛇珀はいろりに止められるのも聞かず、学生服にコートを羽織り、二月の寒空の下登校した。
 軽く記憶を覗けば盲学校ではなく視力がある者たちの学校に通っていることがわかり、すぐにその場所も把握できた。故にそれ以上は後の楽しみにと深くは覗かなかった。盲目の人間の身体に入っても、神が記憶を探れば心の目で映像を見ることができるのである。

 ――そうだ、まずは目が見えるようになったとクラスの奴らを驚かせてやろう。
 
 蛇珀はそう企んで、いろりが通っている中学三年二組の教室扉を勢いよく開いた。

「おはよう!」
 
 いろりに成り代わった蛇珀は、教室内にいた生徒たちの注目を一身に集めた。
 皆静まり返り目をむいて驚いているのは、普段大人しい彼女が大声で挨拶をしたこと、そして何よりその目がはっきり開かれていたせいだろう。

 蛇珀は辺りを見回すと、窓際に三人、女生徒を見つけた。それがいろりの記憶で見た顔ぶれだったため、蛇珀は彼女たちがいろりの友人なのだろうと思い歩み寄った。

「私ね、目が見えるようになったの」

 ――何やらおかしい。と、蛇珀は思う。

 昨日まで目を瞑っていた友人が急に開眼すれば戸惑うのはわかるが、それでもよかったね、とともに喜んでくれるものではないか?
 それなのに、今のこの者たちの反応はどうだろう。
 嬉しがるどころか、気まずそうに目を泳がせて黙り込んでいるではないか。

 しかし、その違和感の正体に、蛇珀はすぐに気づくことになる。
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