蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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蛇珀といろり

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「……なんだ?」
「あ、え、ええと……」

 明らかに歯切れの悪いいろり。
 そしてその身体から微かに匂う、いろり以外の者の香り。
 神の五感は、人の比ではない。

 ――男の、匂い……?

 それに気がついた時、蛇珀は常軌を逸した怒りに囚われた。
 
「いろり……俺に嘘は通じねえぞ……!」

 風のない場所で、蛇珀の長い髪が動きを見せる。翡翠色の瞳は縦長に鋭くなり、身体からは白い光が溢れ出た。それは普段の優しい光ではなく、息ができなくなるような強い圧を持っていた。

 そして蛇珀の変化と連動するように、地面が揺れ始めたのである。

 ――地震……!?

 いろりは驚き辺りを見回したが、まさか、とあることに気づく。

 神である蛇珀が憤怒すれば、もしや大地を揺らすことも可能なのでは、と。

「じゃ、蛇珀様……蛇珀様!!」

 いろりの声に、蛇珀はハッとし、ようやく我を取り戻した。
 ――と、同時に、地震も鎮まったのである。
 いろりの考えは正解であった。
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