278 / 309
16.フォレスピアの甘い罠
22
しおりを挟む
「グルルルル」
喉を鳴らして涎を垂らし、カメレオンのように左右の瞳をあちこちに動かしながら近づいてくるそれ。
よく見てみると、首元にスカーフのような黒い布が巻きついているのがわかる。それを魔術師のローブだろうと即座に判断したのはアリストだ。魔術学校で支給されるローブは、ある程度耐久性があるので、なんとか破れずに彼の首に留まったらしい。
「ま、まさか……あれが、アラン、なんですの……?」
「そのようだな」
唖然とするナターシャとステラに対し、アリストが冷静でいるのは、一足先に状況を把握したからだ。
大聖女のナターシャを奪いたいなら、それ相応の力がいる。ステラがアリストを消すのに成功するとも限らないため、念のために二人に勝る力が必要だと考えるだろう。
となれば、アランが今夜、ありったけの魔力を吸収すると読める。となれば、このタイミングでオーバーヒートが起きるのは必然だったのだ。
魔獣の命と引き換えに魔力を得るという、禁忌を犯し続けた成れの果て。
それを目の当たりにしたステラは、魔獣たちの無念と自身の愚かさを痛感した。
化け物となったアランは、ズシン、ズシンと、音を立てナターシャたちに歩み寄る。
その度、ビリビリと身体に伝わる振動、まるで大地が揺れているかのような。
湖畔を囲む木々を踏み潰し、その全身がナターシャたちの前に晒されると、アリストは顎を引き、グッと足に力を込めた。
が、アリストが魔術を発動させるより先に、急に足を止めたアランが両手を振り上げ、上体を反らして、天を仰ぐ。
「グオゥアオアアアア!!」
耳を劈く咆哮が響き渡ると、アランの周りに黒い宇宙のような空間がいくつも出現する。
次の瞬間、その空間とともに、アランの姿が忽然と消えた。
まさに瞬きする間の出来事に、ナターシャは瞼を激しく上下させ、目を凝らして現実を確かめる。
「き、消えた……?」
「転移魔術を乱発させて移動したんだ、理性がない、まるで凶暴化した獣だな」
まさしくアリストの言う通り、今のアランは、もはや人ですらない。利用していたはずの魔獣たちの魔力に脳まで支配され、本能のまま暴走する魔物と化している。
アラン自身はこれ以上ないほどに自業自得だが、このまま放っておけば町や民、国にまで影響を及ぼしかねない。
喉を鳴らして涎を垂らし、カメレオンのように左右の瞳をあちこちに動かしながら近づいてくるそれ。
よく見てみると、首元にスカーフのような黒い布が巻きついているのがわかる。それを魔術師のローブだろうと即座に判断したのはアリストだ。魔術学校で支給されるローブは、ある程度耐久性があるので、なんとか破れずに彼の首に留まったらしい。
「ま、まさか……あれが、アラン、なんですの……?」
「そのようだな」
唖然とするナターシャとステラに対し、アリストが冷静でいるのは、一足先に状況を把握したからだ。
大聖女のナターシャを奪いたいなら、それ相応の力がいる。ステラがアリストを消すのに成功するとも限らないため、念のために二人に勝る力が必要だと考えるだろう。
となれば、アランが今夜、ありったけの魔力を吸収すると読める。となれば、このタイミングでオーバーヒートが起きるのは必然だったのだ。
魔獣の命と引き換えに魔力を得るという、禁忌を犯し続けた成れの果て。
それを目の当たりにしたステラは、魔獣たちの無念と自身の愚かさを痛感した。
化け物となったアランは、ズシン、ズシンと、音を立てナターシャたちに歩み寄る。
その度、ビリビリと身体に伝わる振動、まるで大地が揺れているかのような。
湖畔を囲む木々を踏み潰し、その全身がナターシャたちの前に晒されると、アリストは顎を引き、グッと足に力を込めた。
が、アリストが魔術を発動させるより先に、急に足を止めたアランが両手を振り上げ、上体を反らして、天を仰ぐ。
「グオゥアオアアアア!!」
耳を劈く咆哮が響き渡ると、アランの周りに黒い宇宙のような空間がいくつも出現する。
次の瞬間、その空間とともに、アランの姿が忽然と消えた。
まさに瞬きする間の出来事に、ナターシャは瞼を激しく上下させ、目を凝らして現実を確かめる。
「き、消えた……?」
「転移魔術を乱発させて移動したんだ、理性がない、まるで凶暴化した獣だな」
まさしくアリストの言う通り、今のアランは、もはや人ですらない。利用していたはずの魔獣たちの魔力に脳まで支配され、本能のまま暴走する魔物と化している。
アラン自身はこれ以上ないほどに自業自得だが、このまま放っておけば町や民、国にまで影響を及ぼしかねない。
1
あなたにおすすめの小説
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる