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吸血族の城

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 穏花はなぜそんなことが起きたのか、予測を立てることさえできなかった。
 しかし、彼らは自分を欺こうとはしていない、少なくともそれだけは信じられた。

 穏花は少年たちと同じ目線になるように屈むと、ヨハンの柔らかな金髪を撫でた。

「……なんって……ひどいことを……」

 ようやく絞り出された微かな音と、苦しげに歪んだ表情。
 二人は驚いたように目を丸め、少し戸惑いながらも大人しくしていた。
 時間にすれば数秒だっただろう、しかしこのささやかなやり取りは、双子の脳裏に印象的に刻まれた。

「――あっ! ご、ごめんねいきなり! 馴れ馴れしかったよね!?」

 夢中だった穏花は、自分が何をしていたのか気づくと飛び跳ねてヨハンから離れた。

「うちに同じくらいの歳の妹がいてね? あ、正しくは従姉妹なんだけど、なんだか重なっちゃって、つい……」
「行くよ」
「あ! 待ってよ、美汪!」

 美汪の後を追い暗がりに消えていく背中を見たヨハンが、小さく呟く。

「……あの人は、悪い人じゃない気がする」
「ヨハンは、そんなお人好しだから騙されるんだぞ」
「でも、綺麗な目だったよ。それに……あの美汪が信じて連れて来たんだもん。僕たち……吸血族のことを絶対誰かにバラしたりしないよね」

 ヨハンは残された左目に期待に似た光を宿しながら、兄のアベルにそう話した。

「……まあ、美汪が信用してるなら、な」

 アベルは弟の声を聞き届けた後、穏花が向かった道を眺めていた。
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