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吸血族の城

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 穏花は涙を目元いっぱいに溜めていた。
 しかし、自分には泣く権利すらないのではないかと、奥歯を噛みしめ、堪えようとしていた。

「僕が世界を渡り歩いて来たのは混血を拾い上げるためだ。純血の僕と違って彼らは吸血族の姿になる条件が定まっていないからね、吸血族の姿から戻らなくなってしまった者もいれば、ある日突然その姿を晒してしまう者もいるし、一生人間の姿だけで終わる者もいる」

 混血の大半は人と衣食住が変わらないため共生しやすくはある。しかし変貌が不安定なため予期せぬタイミングで正体を暴かれることがあり、常に目を光らせている被験体を求める機関に拉致される。世界中の行方不明者や迷宮入り事件には、この件も多く含まれていた。

「じ、じゃあ、美汪、も……もし、その、人たちに、見つかったら――」

 穏花は怖くなり、それ以上を口にできなかった。
 しかし美汪はその危惧を一蹴する。

「それはない。僕のことは全世界のお偉い様方がよくご存知だからね。純血の生き残りは僕だけだし、王域を恐れている。だから同胞を拾いに行く時も堂々としたものだ」

 まるで他人事のように淡々と言葉を連ねる美汪だが、さすがに穏花もその内容の重大さに気づかないはずがない。

「そっ、そうだよね! 美汪の不思議な力があればそんな人たちはコテンパンに……!」
「力で抑えつければ混血狩りを刺激しかねない。僕も世界中に目が届くわけではないからね。それに」

 美汪は一拍置き、少し遠くを眺めるように言った。

「周りがみんな獣なら、せめて自分だけは理性ある賢者でいたい。それは僕が僕であるために必要な信念だ」

 それはこの世で最も孤独な王の、支えとも呼べる美徳であった。
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