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吸血族の城

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 長く広い廊下を経て、ようやく足を止めた美汪の傍らに、ある人物の姿が見えた。
 黒の執事服に身を包み、オールバックにしたロマンスグレーの髪、白い肌と彫りの深い顔立ちをした年配男性は、美汪に美しい礼をしていた。

「お帰りなさいませ、美汪ぼっちゃま」
「こちらの部屋を使うよ」
「かしこまりました、キャンドルの準備はできております」
「ああ」

 二人の会話や様子から、慣れ親しんでいるのが伝わる。
 穏花がどうしていいかわからず何も言えずにいると、老紳士は彼女に視線をやり微笑みかけた。

「初めまして、私はコーエンと申します。昔からこの城でぼっちゃまにお仕えいたしております」
「あっ、は、初めまして! 萌木穏花といいます! な、なんか突然お邪魔してしまいすみません!」
「いいえ、お噂はかねがね、ぼっちゃまからお伺いしております。ようこそいらっしゃいました」

 コーエンは糸のような目をますます細め、穏やかな口調で穏花を迎え入れた。
 その瞼の隙間から薄茶色の瞳が垣間見えた時、ギィ、と扉が鈍く開く音がする。
 穏花が右側に顔を向けると、多数並んだ扉の一つから、廊下を覗くように身を乗り出した人々を見つけた。
 年齢や性別、髪や瞳の色も様々な彼らは、警戒と好奇の心を混ぜたような視線を穏花に投げかけていた。
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