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あふれる想い

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 元より穏花に合理的な解答は求めていない美汪は、ただなんとなく、彼女なりの返事を聞いてみたくなった。

「うーん……本当の自分をわかってくれる……わかろうとしてくれる人がいないこと、かな? ……難しい、やっぱり美汪みたいにうまく言えなくてダメだね」
「……なるほどね」

 もっとバカにされると思ったのに、腑に落ちた様子の美汪を穏花は意外に感じた。

「美汪は、不幸ってなんだと思う?」
「最も不幸なことは、自分で自分を不幸だと思うことだ。自らを蔑み貶めることほど、愚かで滑稽なことはないからね」

 それはまさしく美汪を現す答えだった。
 美汪のその定義で言えば、どれほど周りから見てどん底であったとしても、自分自身が軸を安定させていれば永遠に不幸にはなり得ない。
 しかしそれは、棘の牢獄に捕らえられてもなお真摯に前を見据え続けろという、自身を奮い立たせるための悲しき哲学でもあった。
 理想と現実。
 その理想の化身のような主君である彼が、現実に崩れ落ちる日は来るのだろうか。
 もしもいつか訪れるそんな時に、美汪を介抱できるのが自分であったならどれほど幸福だろうかと、穏花は考えていた。

「うん……そうだね、美汪が言うと、説得力と重みがすごいよ」
「大袈裟だね、大したことは言ってないよ」

 美汪は気のないようにそう言うと、徐に立ち上がり見上げた本棚に向け左手を掲げた。
 そして誰かを呼び寄せるように人差し指を自身の方へクイと動かすと、それを合図にびっしり詰まった書物の一冊が棚から飛び出す。
 それは風船が浮遊するかのようにゆっくりと落下し、美汪の左手に収まった。
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