枯れる前に

みよし

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出会い

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 あえてお洒落はしない。
 普段の私。
 気取っても仕方ない。
 出会ったのは職場。
 私がパート勤めしていたパン屋さんのお客様。
 毎日菓子パンを2つ買って帰る。
 たまたま、仕事を早退して近所のスーパーマーケットに入ろうとした時に声をかけられた。
 そう、彼だった。
「今日はパン屋さんはお休みですか?」
「いえ、私、用事があって・・・」
 用事まで言う必要もないし、言葉に詰まった。
 何気ない質問だったのに。
「あーあ、そうだったんですか。帰り寄るつもりだったから。」
 私は頬が赤くなるのが分かった。何、意識してんだろって、恥ずかしい気持ちになった。
「じゃあ」
 この場から立ち去りたかった。軽く会釈してスーパーマーケットに入らず車に戻った。
 背中に感じる視線を無視して。
 その時、車が急にバックしてきて・・・
「危ない!」
 気がつけば病院のベッド目が冷めた。

「大丈夫?」
 恐る恐る語りかける人がいる。夫?お父さん?弟?いや、知らない人。
「ユキちゃん大丈夫か。」
 耳に響く声、店長。
 バタバタと足音がして看護師さんが声をかけてくれた。ベッドが座椅子のように起き上がる。
 背中に激痛が走った。
「浅井さん、大丈夫ですか?確認しましたが骨折はしてませんよ。打撲です。軽症で良かった。」
 軽症?打撲?
 すぐには頭が回らなかったが、よくよく思い出したら私、スーパーマーケットで・・・
 車に接触したみたい。
「ユキちゃん。シュンちゃんに連絡したよ。」
 あーあ、旦那様にね。興味あったのかな?流石に聞けない。
 店長は続けて。
「近藤さんが、店に知らせに来てくれた。ユキちゃんの事故。」
「ありがとうございます。コンドーさん?」
「近藤です。車に跳ねられた時はどうなるかと思いました。軽症で良かった。運転手さんは店の方と現場検証だと思います。目撃者もたくさんいる。後方確認怠ったと慌ててました。」
 一気に吐き出すように説明を受けた。こんなに喋る人だったんだーと思ったらなんだか笑えてきた。
「ご迷惑おかけしました。ありがとうございました。」
少し眠くなってきた。私は再び眠りについた。
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