枯れる前に

みよし

文字の大きさ
上 下
4 / 15

出会い3

しおりを挟む
「ユキちゃーん。具合どう?」
 ドアが開くなり響き渡る声。個室だからいいものの!こんな調子だから、浩二にこなくても良いと言われるのだ。
 浩二は、仕事があるからと言って手続きを済ませると、さっさと病院から去っていった。
 私はすでに事情を把握出来ていた。
 スーパーマーケットの駐車場でバックしてきた車にはねられた。幸いにして骨折はなく軽症の部類で全治1ヶ月と診断された。事故の相手も保険会社も良い人そうで、とりあえず個室で休業補償もしてくれるそう。見舞金もあるみたい。すべて浩二が段取りしてくれた。
 私はその事を店長に説明した。店長もすでに状況は理解していた。浩二が説明したんだろう。ついでに離職ってことも。
「とにかく良かった!」
 店長は私の手を握った。この人は何かにつけて、触りたがる。そんなところが浩二に目をつけらるところ。
「ありがとうございます。大したことなくて良かったです。お店の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。アルバイト募集したし。ゆっくり休んで、ユキちゃん」
「ありがとうございます。」
 ハヤッ、もう募集したわけ?張り紙程度とは思うけど。
「コンドーさん、帰り顔出してくれたから、パン、今日は大サービスしたよ。あの人、単身赴任で・・・」
 ふーん。単身赴任で私より一つ上。国家公務員で市役所に出向してるんだって。
 あんなおっとりした人がねー
 店長の話によれば、テレビドラマに出てくるようなエリート官僚ではないそうだ。そこまでよく聞き出せたもんだ。
「店長、浩二が言ってたこと・・・」
「ああー、辞めること? 退院したら決めたらと思ってるけど? うちも人手足りないけど余裕もないし。アヤコもうるさいし。ユキちゃんとのこと。」
「そうですか。アヤコさんね。」
 店長は女好きというか人間好き。バイセクシャル。夫が単身赴任だと言うとすぐに口説いてきて。
 でもこの子駄目だと理解して、人懐っこい性格だし、すぐに気軽な友人。しかも女友達のような関係性になった。
 アヤコさんは、店長の彼女。
 店長は独身主義。結婚してくれないことが腹立たしいようで、いつもカリカリしている。そのうち別れるだろう。
「ユキちゃん、コンドーさんに何か言っておくことある? 流石に明日以降は、ここにも顔は出さないと思うし、店に来たらお礼は伝えとくけど。」
「お礼よろしくお願いします。後は別に。そうだ、何か立替とかしてくれたんですか?例えば冷蔵庫にある飲み物とか?それくらいかな?」
「OK.、聞いておく。」
「よろしくお願いします。」
「あの人、コンドーさん、どうもユキちゃんに興味あるみたいなのよねー 生着替えでも見ちゃったかな?」
「まさか!?」
「冗談。でも興味はホント。分かるんだよねー、僕。そういうの。」
「やめてよ。」
「いやいや、マジな話。だから病院には来させない。」
 どこまで冗談なのか、わからない。
 近藤さんかぁ。
 気の毒なことをした。何時間ここにいてくれたんだろう。歯磨きセットや趣味が全く違う肌着など誰が買い揃えてくれたんだろう?
 おそらく浩二の奥さんだとは思うが顔も見てはいないし。来ることもないだろうし。
 市役所にいるなら退院したら訪ねてみよう。
「なに、ニヤニヤしてるの?」
 店長が怪訝そうに聞いた。
「なんでもないですよ。ここ個室だしゆっくり出来るからテレビ見ようかな?って。」
「あっそ。」
 店長はテレビをつけてくれた。ニュースが始まっていた。面会時間はとっくに過ぎていた。
「シュンちゃんに連続入れておいた。浩二くんが戻らなくて良いと言ったから週末に顔出すって。人の旦那の悪口言いたくないけど、相変わらずだよねー、淡白というか素っ気ないというか。」
「いいのよ。それで」
 私の夫の俊は都市銀行に勤めている。
 出世もそこそこに、今は、地方にある関連会社の役員として出向中。融通が聞くので、帰れない理由はない。帰る気がないのだ。
「そろそろ、寝ようかな。店長、ありがとう。」
「おやすみ。また明日。」
そう言って後にした。長い一日が終わって私は眠りについた。
しおりを挟む

処理中です...