金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第二章

第二話 「えいっえいっ」を初見学〜急げ!宮廷画家!

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 マード王国の第一王子マグヌスは5歳になり剣の練習を始めた。それに伴い側近候補で現遊び相手のユリアンとリゼルも剣の練習を始めた。そんな話を聞いているリオンは兄たちのかっこいい姿を見たくてたまらない。
 どうしたら兄たちのかっこいい練習風景を見られるのかと思案しているリオンに大チャンスが巡ってきた。第二王子ヴァジュラの側近候補として、今は遊び相手の役目を担っているリオンとルゼルに、王宮に登城した際に専任護衛がつくことになった。その選任のため今日は直接騎士の練習場を見学できることになったのだ。そして今日は兄たちも練習している日だ。もうリオンの心は朝から空にいるようにふわふわワクワクしている。しかも今日はルゼルも一緒だ。こんなに昂るお出かけはなかなかない。

 上位貴族は幼少期から騎士道を学ぶので、大人側には今日の見学で騎士の存在を身近に感じて興味を持たせるといった狙いももちろんある。だが、リオンにしてみるとそのような大人の思惑は関係なく、ただただ兄たちの勇姿見学だけが楽しみな日だった。
 そして今リオンとルゼルは王宮に到着し練習場に着くまでの間、今日のお約束を確認しあっている。
 「いい、るじぇ、きしさまみんな、えいっえいってちてるから、ひとりではしったらだめよ」
 「うん」
 「あと、あと、きしさまみんな、えいっえいってちてるから、わあーっわあーっていったらだめよ」
 「うん」
 「あと、あと、えっと…ごあいさちゅちゃんとよ」
 「うん」
 身振りを交えて話すリオンに真剣な面持ちで答えるルゼル。2人の会話を聴きながら練習場まで案内している見習い騎士の面々は、自分にこんな可愛い弟がいたら…とか、自分がこのくらいの時はもっとひねくれていたな…とか、いやマジでこの2人天使だろう…とか思っていた。

 練習場の扉が開くと物凄い熱気がそこにあった。「はわぁ」と、驚くと出るルゼルの感嘆の声が出た。
 剣と剣の打ち合う金属音、ペル(剣を打ち込む練習用の木)に打ち込む木剣の音、それに加えて騎士たちが出す声…何もかもが2人には初めて見る光景だった。
 そこへ長い銀髪を後ろで軽くまとめた騎士団のキエル副団長がやって来て2人の後ろから声をかけた。
 「ようこそ、リオン殿、ルゼル殿。私は副団長の…えっ⁉︎」
 キエルの声に気づいた2人が振り向くと、キエルとキエルと共にいた3人の騎士がハッとして言葉を飲み込んだ。
 キエルはマグヌスから事前に「2人を見たら驚くし、何故護衛が2人に対して5人体制なのかもすぐわかる」と言われていた。そうなのだ。何故5人なのか。
 マグヌスの所にユリアンとリゼルが来る時も城内護衛が付いているのだが、ユリアンとリゼルには3人の護衛が交代で子ども1人につき護衛1人という形なのだ。だが今回の陛下からの要請は護衛5人の交代制で子ども1人に対して2人ずつ護衛が付くように配置せよとのことだった。
 立場的には公爵家嫡男のユリアンと侯爵家嫡男のリゼルの方が護衛の人数が多くてしかるべきではと不思議に思っていたのだが、2人を見てすっかり納得がいった。

 この美しさは危険だ。

 2人ともまだ2歳と聞いているが、それでもこの美しさは子どもの『愛らしさ』にとどまらない。コレクションにしたがるヤバイ奴は必ず出てくる。そのための5人体制なのだと察した。
 金や地位がある環境ながら、その家柄の良さも生まれの順もこの美幼児たちの前では意味を持たなくなる。存在そのものに意味があるのだ。
 騎士としても人としても完全な庇護欲が湧き上がる。そんな愛らしい美幼児だ。それにしても2人?同地区に規格外の天使が2人居る?とんでもない時代に騎士になってしまった。

 キエルが2人に見惚れながら素早く考えを巡らせていると2人が挨拶を始めた。
 「あっあっ、んとんと、りろん・こーくでしゅ。ろろしくおねがいしましゅ」ぺこり。
 「るじぇる・くいんでしゅ」ぺこり。
 慌てたリオンがあたふたしながら言うとルゼルもそれに倣った。そして2人して小声で「ごあいさちゅ、だいじだいじ」「うんうん」と確認しあっている。
 天使か?天使だな。キエルはチラリと2人の後ろに控えている従者たちを見た。従者たちは微笑んで普通に頭を下げた。どうやらこれが2人の通常らしい。これは城外でも護衛が絶対必要だろう。そのあたり大丈夫なのだろうか。あの従者たちが今は護衛も兼務なのかと思いながら先程途切れた言葉の続きを言う。
 「副団長のキエルです。本日はお2人のお相手をさせていただきます。よろしくお願い致します」
 「はい。えと、ふくだんちょさま、兄ゆえが、ありがとござましゅ」ぺこり。
 「りろん、ふくだんちょ、なに?」とルゼル。
 「るじぇ、だめよ、『ふくだんちょさま』よ。えとね、ふくだんちょさまは、きしさまみんなの、えらいえらいのにばんめのひと」とリオン。
 「えらいえらい、にばん⁉︎」と翡翠の目を見開いて、はわぁと言ってキエルを見上げるルゼル。
 待て待て待て、護衛3人ずつ付ける7人体制がいいのではないか?
 そこへマグヌスがやって来た。マグヌスは王太子という立場上日頃の練習はこの練習場ではない別の特別練習場でしている。今日は視察という形で2人に同行するのだ。
 「来たか、2人とも」
 「おうじさまに、ごあいさちゅもうしあげましゅ、りろん・こーくでしゅ」
 ああ、ついに『王子様』って言えるようになってしまったなと少し残念に思うマグヌス。
 「おうじしゃま、ごあいさちゅましゅ、るじぇる・くいんでしゅ」ルゼルは当分それで良い。
 ルゼルが挨拶している間、リオンがキョロキョロしていることに気づいたマグヌスが聞いた。
 「ユリアンを探しているのか」
 「はい」いつもはしっかりマグヌスを見て答えるリオンがキョロキョロしたまま答えた。よほど兄の勇姿を見たいらしい。可愛いことだ。
 「見えるか?あの一番奥の子どもたちがいるあたり、あの中に…」とマグヌスが言い終える前に
 「あっ、兄ゆえっ!えいっえいってしてるましゅ‼︎あ、りじぇるにぃさまもいるましゅ」と指差して興奮気味にリオンが言う。
 「え?あにゅーれ⁉︎」とルゼルも向こうの一角を見た。「あ!あにゅーれ‼︎」見つけたらしいルゼルがピョンピョンと跳ねた。「兄ゆえ、いるましゅ!」リオンも一緒にピョンピョンしている。
 その様子を一団はしばらく無言で眺めていた。いつまでも眺めていられる可愛らしさだ。見る栄養剤のようだ。と誰もが思っているとマグヌスが「よし」と言った。
 「キエル副団長、2人をユリアンたちの近くに連れて行っても良いですか?」
 「もちろんです。兄上方の熱心なお姿をご覧になれば剣への思いも強まりましょう」
 「うん。…それでその後、2人にも木剣を持たせても良いですか?」
 「お2人がやりたいようでしたら一番短く軽い木剣を用意致します」
 「よし、頼みます」

 2人の会話を聴いていた騎士たちが真顔のまま心の中でざわめいていた。「2人が木剣?」「子犬のじゃれ合う感じ?可愛い予感しかない!」「『えいっえいっ』とか言うの?」「いや、絶対見たい!」「うわぁ、今日非番じゃなくて良かった!」

 そしてマグヌスが思慮深い黒い瞳により一層強い意志を持たせて侍従ロイに言った。
 「宮廷画家を急ぎ呼べ」キリッ。
 「はっ。すぐさま」すべて察したマグヌスのロイがそう言って素早く立ち去った。
 「キエル副団長、勝手をしてすまない。騎士たちや騎士の剣捌きは描かせないので許して欲しい。母上に甥たちの姿を見せてやりたいのだ」
 そして自分も小さめの絵を描いてもらうのだ。もちろんあの2人の。できればどうにかヴァジュラも描き込んで欲しい。
 とにかく急げ!宮廷画家!

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