金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第二章

第四話 女たちの野望〜王子様や御令息や兄弟や甥…好きなものは好き!

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 「王妃様、お話があります」
 「待っていたわ、リディラ」
 真顔の2人がそっと端のテーブルに移動する。

 今日は王妃主催の子ども茶会だ。
 今年から年に数回催されることになった茶会は上位貴族のだいたい15歳以下の令息と12歳以下の令嬢が呼ばれている。
 デビュー前の者が多いことから社交に慣れ親睦を深めることが目的ということだが、その実、王太子マグヌスの側近ならびに婚約者選定の下調べという茶会だ。
 王家と繋がりを持ちたい貴族はそれはそれは力を入れて我が子を送り出す。
 王妃もそれなりに息子の将来を任せられる人材探しに力を入れているが、最近はクイン家の長女リディラとガールズトークをすることにより力を入れている。というか純粋に楽しんでいる。

 王妃は甥であるコーク公爵家のユリアンやリオンが可愛くて仕方ない。遠縁にあたるクイン侯爵家のリゼル、ルゼル、アロンも可愛く思っている。宮廷画家に持ち歩けるサイズの姿絵を描いてもらうほどだ。
 しかし立場上頻繁に会えないし、大勢が集まる場所で大っぴらに可愛がることもできない。そこで甥たちの可愛いエピソードをリディラから聴くことを楽しみにしているのだ。

 リディラはいわば王妃の同志だ。リディラも従兄弟のユリアンたちや自身の兄弟のリゼルたちが大好きで、身内というより可愛い観察対象としている。
 その価値観が王妃とガッチリハマったのだ。

 リディラもマグヌスの婚約者候補として参加している茶会なのだから王妃が特別扱いすることははばかられるが、茶会前半はほぼ全員マグヌスに集中する。そこを死角として茶会スタート時に2人は『可愛いエピソード』を手短にやりとりするのだ。

 2人は会場となっている庭園隅のテーブルに座って、人だかりのある方を眺めている。
 「相変わらずマグヌス殿下の周りは大変な人だかりですね」とリディラ。
 「マグもそろそろ人のスマートなさばき方を覚えるといいのだけど、不器用ね」
 「王妃様、殿下はまだ5歳ですからそれは無理ですよ」
 「あら、リディラ。貴女は4歳よね」
 「ユリアン兄様とリゼルお兄様はなんでお二人一緒にいるのかしら。一緒にいるから人が余計集まって動けなくなっているのに」
 「仲良しなのは良いことだけど、あれだけ囲まれていると可愛い甥っ子たちが全然見えないわ。
 それでそれで?あの子たちの新しいお話は?」
 王妃様前のめり。
 「こちらです」と、リディラが一枚の紙をポーチから出して広げる。
 そこには粗く描かれた子どもたちの姿がいくつもある。
 リディラは兄弟愛が深すぎ、一瞬も見逃したくないし記憶に残したい一心で「お絵描きの勉強をしたいので私に画家をつけて欲しいです」と父侯爵に頼んで、一緒に行動している時に素描を残してもらっているのだ。
 王妃に出した一枚はその中の一つだ。

 「まずこちら。我が家の図書室でリゼルお兄様が私たちにご本を読んでくださった時の素描です」
 「まぁ~。まぁまぁまぁ!リゼルはこんなにお兄さんしているのね」
 「リゼルお兄様は読み聞かせがとてもお上手なんです。そしてこちらが」
 と、指を横にずらし
 「ルゼルが図書室に入ると必ず手にする大好きな植物図鑑です」
 そこにはルゼルが図鑑を両手で抱えて立っている素描があった。
 「あら?ルゼルは植物好きだったかしら?」
 「そう、そこなんです。
 ルゼルは本の中身ではなく、表装が気に入っているんです。この図鑑、紫の皮表紙に金の細工なんです!」
 「はうっ!」
 王妃が扇で素早く口元を隠したが、声は出ているし、のけぞってもいる。側から見たら衝撃を受けたことがすぐにわかる。護衛と侍女たちは見てみぬふりだ。
 「待って待って待って、リディラ。金に紫って、それってそれってリオンの色ではなくて?」
 「そうなのですそうなのです!」
 キャー!と小さな歓声をあげて2人は手を取り合う。なんだかそうしてしまうのだ。
 「しかも、ルゼルも『これ、りろん』とか言うのです!」
 キャー!
 「次はこちら。こちらはコーク公爵家の図書館棟です」
 「ん…まぁー!」
 そこにはリオンとルゼルが並んで座りリオンがルゼルに読み聞かせている姿が描かれていた。
 「リオンはもう文字が読めるの?」
 「そうなのです。しかも読み聞かせながら『これはね、この子のお名前よ』など解説まで入れるのです!」
 「んまっ、優しい!」
 キャー!キャー!

 ここで副侍女長のライラが王妃に近寄り小声で言う「そろそろでございます」
 マグヌスや公爵家嫡男のユリアンに顔を売りたい者たちの売り込みが落ち着き始めたことを教える。次は王妃に目が向いてくるので移動の頃合いなのだ。
 「ああ、残念。私も先日の騎士団訪問の話がしたかったわ。マグが宮廷画家に絵を描かせたのよ」
 「絵があるのですか⁉︎あの日ルゼルは夕食の間中その話をしていました。私も見たいです!」
 2人はさりげなく歩きながら会話している。
 「そのうちまた会える機会の口実を設けましょう。ねぇ、リディラ、暫定的にマグの婚約者になる気はない?そうしたらわざわざ口実つくらなくても会えるわ」
 「お断りします」
 即答。
 そんな立場になったら可愛い兄弟観察の時間が減るし、気の強いどこかの令嬢に意地悪されるから嫌だ。読んだ物語ではそういう立場だ。嫌だ。
 「ではこちらの絵は王妃様に」
 「ありがとうっ!」
 小さくたたんだ紙をリディラは王妃に渡した。
 リディラが小さく言う。
 「私は絵を勉強して自分でも沢山描けるように頑張ります。ただ描いている間の見逃し分があることが残念で。写真機が一瞬のことも撮れると良いのですが」
 今の写真機は長時間かけて静止したものしか写せない。
 「一瞬を撮れる写真機…あれば私たちの野望がもっと満たされるわね。それにそれができたら地方の災害状況や様子なんかも迅速に把握できるわねぇ」
 甥を可愛がる気持ちと国を思う気持ちが横並びにある。流石王妃だ。しばし王妃は何かを考えて空を見上げた。
 2人は一瞬を逃さない写真機に思いを馳せながら無言で別れた。

 リディラの姿を見つけたどこかの年上の令嬢方が近寄ってくる。
 「リディラ様!あちらでご一緒にお話致しましょう」
 年上の令嬢方の狙いはユリアンかリゼルだ。毎回リディラを通して兄たちの情報を聞き出そうとしてくる令嬢方がいる。お兄様は何がお好きなのとか、お兄様はどんな本を読んでいるのとか、お兄様のお好きな色はとか…リディラのことなど見えないように質問してくる。だがリディラはそれを疎ましくは思わない。ただ本音をもう少し隠して立ち回れないのかなと思っている。綺麗で可愛い令嬢たちが言動で損しているように見えるのだ。

 そんな冷静なリディラを遠目で見ながら、王妃は「やっぱりリディラが良いと思うのよ…マグ、頑張ってくれないかしら」とため息をつくのだった。

 
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