金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第五話 図鑑を作ろう!〜好きなものが集まってると嬉しいから

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 リオンとルゼルはクイン侯爵家の図書室のいつものソファにいた。
 先日『跳ぶ生き物』を図鑑で調べて驚いた。ウサギと蛙だけでなく、カンガルーとかワオキツネザルとか、バッタという虫とか、挙句魚にも跳ねる魚がいるとわかった。
 世の中まだまだ知らないことばかりだ。
 二人は図鑑が大好きだ。好きなものを図鑑で調べると、似たもので知らなかったものが近くに載っていて、好きなものが増えていくからだ。
 今日も二人は好きなものを調べている。が…
 「ないねぇ」
 「うん。ない」
 調べたいものは『生き物図鑑』には載っていなかった。
 「こっちかな?」
 「むししの、ずかん?」
 ルゼルは虫のことを『むしし』と言う。
 「うん。むしのずかん」
 「じゃ、るじぇるはおはなのずかん、みるね」
 「るぜ、『わたし』よ。3さいよ」とリオンがルゼルに言う。
 ルゼルの『むしし』は訂正しないリオンだが、一人称にはダメ出しをする。
 二人は3歳になったので、一人称を『私』にするよう言われているのだが、これがなかなかすんなりと言えない。
 「あ、るじぇる、またまちがえた」
 「るぜ、『わたし』よ」
 「あ」
 そんな会話をしながら、二人は図鑑を持ってきてはソファによじ登り、「ないねぇ」と言っては次の図鑑を取りに行く。
 もう、生き物図鑑も昆虫図鑑も植物図鑑も見た。魚図鑑も古代の生き物図鑑にもなかった。子どもの本だけでなく、大人の図鑑も見てみた。なかった。
 「ないねぇ」
 「ないー」
 「うーん」
 その様子をいつものように見守っていたリディラが「何を探しているの?」と聞いた。リディラは今日は見守るだけでなく、刺繍の図案集を見ていた。
 「ゔぁじゅらしゃまのずかん」
 ヴァジュラ様の図鑑て言った?なんとなく確認したくてリディラは今日もリディラと共にいる画家ロンを見た。ロンは黙って頷いた。
 「こほん。ヴァジュラ殿下の図鑑とは?」とリディラ。
 「あねーれ。ゔぁじゅらしゃま、なんのずかん?」
 「りでぃ姉様、ゔぁじゅら殿下はまだあかごだから、ずかんないの?」
 どうやら、二人は好きなものはなんでも図鑑にあると思っているらしい。
 「うーん。ヴァジュラ殿下は図鑑に載ってないのよ」
 「えっ!」
 「しゅごいしゅごいなのに?」
 「ええ。例えばウサギは図鑑に載っているけど、ウサギ卿は載っていないでしょう?」
 リディラはわかりやすい例えで図鑑に個人は載っていないと教えた。
 「だけど、貴族名鑑という本があって、マード国の貴族が載ってる本ならあるのよ」
 貴族名鑑は貴族の交流のために毎年改訂されて出される本だ。婚姻の参考にしたり、事業の資料にしたりと使い方は様々だが、最近は今まで当主一家や家が絵として載っていたものが写真に置き換わるなどして、貴族以外にも人気のある本となっている。しかし、王族の詳細は載っていない。婚姻の参考にできないし、事業やりとりもしないからだが、一番の理由は王家の情報管理という警備上の問題だろう。ヴァジュラのヴの字もない。
 「ない…」
 二人は愕然としていた。大好きなヴァジュラが図鑑にない。しかも自分たちの父が載っている貴族名鑑にも載っていない。衝撃。
 さぁどうする。
 「ちゅくる」
 と言ったのはルゼル。
 「ゔぁじゅらしゃまのあるずかん、ちゅくる」
 ルゼルはこの間、リオンから大好きな『みっかの、だいぼうけん』の絵本の手作り写本をプレゼントされてとても感激した。その後もリオンはコツコツと続きを描いてはプレゼントしてくれる。とても嬉しいし、本を自分で作るリオンがかっこよくていつか自分も作ってみたいと思っていた。
 「‼︎いいね!るぜ!わたしもつくる!」
 「うん!」
 二人とも大乗り気だ。
 「りろん、、おしえて」
 「うん!がかさま、おしえてください」
 面白いことになってきた。どんな図鑑が出来上がるのだろう。
 「しゅきなもの、いっぱいいーっぱいのずかんにしゅるの」
 「うん。だいすきのずかんね」
 リディラはそんな二人を見ながら
 「大好きなものを集めてまとめるの、楽しそうよね。図鑑ほど難しくなくて、お母様がお買い物で見ているカタログみたいな感じで私も何か作ってみたいわ。例えば美味しいお菓子とか、可愛いリボンとか。好きなものをまとめた薄い本。楽しそう!」

 リオンとルゼルはそれからしばらくロンから絵の指導をしてもらい、文字の練習もし、自分たちの図鑑作りのための準備に余念がなかった。
  
 一方リディラは、すでに文字も書けたし絵の指導も受けていたので2人より先に手作り本を作り上げていった。
 それは図鑑より砕けた内容の、好きなものを集めて主観的なコメントをつけた薄い趣味の本だった。
 始めはお菓子やリボンの本だったが、やがて「こんなお菓子があったら良いな」という空想シリーズや「この物語のこの人が好き。徹底分析シリーズ」とか「あの物語のワンシーンを自分なりに描いてみたシリーズ」など独創的な本を作った。人物をピックアップする時は、表紙の色合いをその人の瞳や髪の色にするなどリオンやルゼルが用いていたアイディアを使った。
 あくまで趣味なので、完全手作りの一冊のみで、リディラが個人的に楽しむために作ったのだが、それを見たリディラの本好きの令嬢の友達の間で大好評となり、「私もこんなテーマで作ってみるわ」とか「私ならこのシーンをこう描くの」など仲間が増えていった。
 これが近い将来マード国のサブカルチャーとして広まっていく新しい文化の誕生だった。
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