金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第三章

第十六話 お土産を買いたい!〜かっこいい「くださいな」をキメたい

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 リオンとルゼルはサロンのリリィラのところに行った。そしてキラキラした目で言った。
 「でおみやげかいたいです」
 「はどうしたらできるでしゅか?」
 「あらあら、どうしたの?」
 リリィラは笑いながら聞いたがだいたいの察しはついている。ユリアンとリゼルが買い物体験をしてきたところだ。感化されたに違いない。
 「です」
 「母ゆえたちに、でしゅ」
 やる気満々の二人だ。アーネストからルゼルが泣いた話を聞いていたので、これは良い機会かもしれないと考えた。
 「父上に相談してみましょうね」
 「「はいっ」」

 リリィラから話を聞いたアーネストは笑った。
 「あんなに泣いたのに、ちゃんとねだってきたなルゼルは。変に萎縮しないところはあの子が人の言葉の真意を読み取れる証拠だな」
 そういうところはジゼルにもリリィラにもある。クイン家の血なのだろう。
 アーネストは考えた。ユリアンやリゼルは学園生になっているし、社会勉強でもあるから町へ出ての買い物も許した。二人の従者は護衛も兼ねているが、他にも護衛を付けた。だが、リオンとルゼルを外に出すのはどうだ?
 初めての町に出たらきっと黙ってはいないはずだ。はしゃぐ二人は目立つだろう。ただでさえあの美しさと雰囲気の二人だ。ユリアンたちより手練てだれの従者と護衛を付けてはいるが、王都より地の利がない場所で二人を人目にさらすことは危険だ。
 だが、買い物の経験はさせてやりたい。あの二人には人より少し早い経験をさせるべきということも理解している。
 アーネストが出した結論は、懇意にしている商社を別邸に呼ぶことだった。すぐに手配し、翌日の朝に来ることが決まった。
 「父上!ありがとうございます!」
 「!ありがとござましゅ!」
 「るぜ、おかいものだよ」
 「うん、りおんと、おかいもの。くださいなしゅるの」
 手配した商社はクイン家ゆかりのナイン商社だ。事前に口の硬い者を寄越すように言った。信頼できる商社だ。とにかくリオンとルゼルの非凡さを迂闊に広めたくなかった。

 翌朝来たのはナイン商会のトップ、商会主ジル・ナインとその側近ユンだった。ジルはクイン家の遠縁にあたる。
 「まさか会主が来るとはな」
 とアーネスト。
 「大事なコーク公爵様からの何やら大切なお願いのようでしたので」
 ジルは人好きのする笑顔で答えた。
 ジル・ナインが秘密を集める商売をしているという裏の噂もあながち噂だけではなさそうだなとアーネストは思った。だが今は口が硬ければ良い。
 「わざわざ子どもの土産で呼びつけてすまないとは思うが、訳がある。これから来るのは息子たちと甥姪だが…少々驚かれると思うがここでの事は口外無用で頼む」
 「はい。承知いたしました」
 ジルはユンを見た。ユンも頷き、了解の意思を示す。
 公爵がそこまで隠したい子どもの秘密とは何か?子どもたちの美しさは知っている。クイン家の遠縁なので当主家族の話はよく聞くし写真でも見ている。確かに美しい子どもがこの地方の町に現れたら少し危険かもしれないが、やや大袈裟ではないか?
 と、考えていると扉が開いた。
 「父上、失礼します」
 ユリアンだ。「失礼します」続いてリゼルが入ってきた。
 写真で見るよりずっと美しいな、とジルは驚いた。その後からリディラも入る。これまた美少女だ。公爵が過剰に心配しているのはこの姪か。リディラは王太子妃候補のはずだ。確かに町に出すのは危険だな。と、納得した時、「は?」と声が出てしまった。いつものビジネススマイルを忘れて見入ってしまった。
 なんだ?あの子どもたちは?
 「父上!おかいものします」
 「、しちゅれしましゅ」
 写真で見るより、噂で聞くより、ずっと現実離れした子どもが二人入ってきた。なんだろう、あのふんわりした雰囲気は?
 「…そうなるよな」
 とアーネストは小さく言った。

 ジルは一瞬気を失ったくらいの衝撃を感じたが、すぐさま仕事の顔に戻った。
 「いらっしゃいませ、皆様。今日はナイン商社が皆様のお買い物のお手伝いをさせていただきます」
 ジルとユンは子どもたちの目の前に、この地方の特産物や定番の土産物など数多くの品物を広げた。
 「こちらはこの地方特有の織物です。こちらはやはりこの地方で取れる果実を干して練り込んだお菓子です」
 地方で語り継がれている話の絵本や、貝のペンダント、景色を描いた絵葉書、綺麗な貝のセット。沢山あってどれもこれも魅力的だ。
 「素晴らしいですね」
 リディラが色とりどりの織物を手にしてため息をついた。「手触りも良いのですね」なんて品のある令嬢か。やはり公爵が秘密にしたいのはこの姪か。と、リオンがジルに声をかけてきた。
 「しつれします。おしえてください。えとえと、リディ姉様がおててにもってるぬのは、どうしてきれいですか?」
 カラフルということだろう。
 「これは糸にこの地方特有の植物から取れた色を色々染め付けて、織っているからですよ」
ってなんですか?」
 あ、少し難しい言葉だったか。しかし特有の意味…
 「特有とはここにある特別という意味でございます」
 ジルはこの説明でも難しいなと自分で思った。確かこの令息は3歳だと聞いている。
 「というのは、ということですか?」
 …通じている?今ので?
 「…はい。そうです」
 「んとんと、だと、では、めずらしですか?」
 「はい、王都では珍しくて手に入りにくいと思います」
 「ありがとうございます」
 「りおん、おみやげは、めずらしがいいね。がいいね」
 「うん」
 もう一人も今の会話でを理解したらしい。今度の質問はそのもう一人の方ルゼルからだ。
 「ないんしゃま、このでしゅか?うみでおなじのみました。ずかんでしらべたけど、ないでした」
 「…はい。この貝はここの海にしかいない貝です。正確には同じ種類の貝はいるのですが色がこの海特有なんです」
 「なんででしゅか?うーん…かいのたべるもの、ちがうですか?」
 なぜわかる?確かにそうだ。貝自体はどこにでもいる種類だが、この海域にしかいないプランクトンを食べているから貝の色が独特になるのだ。
 「その通りです…なぜそれを?」
 「ずかんにおしえてもらいました!たべるもので、いろがつくがいるって。だからもそうかなって」
 リオンとルゼルはその後、気になったものの値段を聞いて回った。どれも二桁や三桁の数字だ。渡されたお金は千キン。卵なら60個から70個。スケッチブックならいつも使っているものが10冊買える金額だとリディラに聞いたが卵のことはわからないから二人の基準はスケッチブックだ。
 「うーん。おっきいかずがむずかしです」
 「おかね、つかうのむずかしだね。くださいなは、いっぱいいっぱいかんがえることあるね」
 二人は見たり聞いたりとじっくり品物を吟味して回った。そして欲しい物を絞った。リオンは絵本と特有の布を貼り付けたスケッチブックと貝のコースターが欲しかった。ルゼルは絵本と特有の布を貼った写真立てと貝のコースターが欲しかった。
 「えとえと、えほん六百きん、すけっちぶっく四百きん、こーすたー、ひとつ二百五十きん。ぜんぶで…あれ?たりない?」
 「んとー、えほん六百きん、しゃしんたて七百きん、こーすたー二百五十きん…えとえと、しゃしんたて、もひとつのほうにしゅると五百きん…やっぱりたりない?」
 計算できるのか?とジル。
 「るぜ、たりないおもう」
 「あにゅーれ、たりない?」
 「うん。リオンは千二百五十キンで、ルゼルは千三百五十キンだな」
 「…まいなしゅでしゅ」
 アニューレ?マイナス?
 「あったらいいなが二百五十たりないから、まいなす二百五十です。みえないおかねが二百五十です」
 「はまいなす三百五十…」
 「うーん。るぜはなんのえほん?」
 「これ、ここののおはなし。あろんにあげたいの」
 「おんなじよ。もそれ、あろんにあげたいの」
 「「あ!」」
 二人同時に閃いた。
 「「いっしょしよ!」」
 きゃー。名案に二人は手を取り合い、跳ね、回る。そしてパンプキンだ。ジルには何が始まったのかわからない。ただとてもいい解決策が見つけられたらしいことはわかった。
 二人はお互いの買い物リストの内訳を確認しはじめた。
 二人とも絵本はアロンにあげたかった。コースターはクイン夫妻のお土産にしたかった。リオンのスケッチブックは「ないしょです。でもほしいです」一方ルゼルの写真立ては「父ゆえと母ゆえに、どうぞってしたいの」とのことだった。
 「じゃ、じゃ、ふたりのおかねをあわせて、そこからアロンのおみやげと、伯父上と伯母上にこーすたーかうとー」
 「えとえとえと…九百のこるよね」
 ルゼルは指を折りながら数えているが、3歳にできる計算とは思えない。
 「そしたらー、すけっちぶっくとしゃしんたて、…かえます!」
 「あ!ぴったりおんなじのになるましゅ!」
 「わーい。できます!」
 「ないんしゃま、くださいなでしゅ!」
 「あ、るぜ、だめ。いっしょよ」
 「あ、ごめんね。いっしょね」
 「「せーの」」
 「「これ、くださいな!」」
 きゃー。きゃははは。「できたねー」「ねー」
 え?二人のお金を合わせた?引き算した?三桁を?暗算で?大人なら簡単な計算だ。だが…先程マイナスと言っていたな?
 そういえば公爵もずっとこの部屋に居る…普通なら子どもの買い物は見ない立場の…しかも宰相…。公爵が秘密にしたいのは王太子妃候補じゃない。この二人の美しさと才能だ…。つまりこの二人は国が関わる…案件………
 ジルはハッとして反射的にアーネストを見た。アーネストは目が合うと黙って目を閉じた。見回すと、従者らしき者たちがジルを黙って見ていた。「内密に」というだ。特に強い視線を送る者がいる。東の国の血を強く引いていそうな男だ。あれは十中八九クイン侯爵家の者だ。
 ジルは知っている。クイン侯爵家で異国の血を引く者を雇うことの真意を。
 それにしても二人。これは大変な存在だ。

 ジルの衝撃も知らずにリオンとルゼルは無邪気だ。
 「るぜ、七百のしゃしんたてじゃなくて、いいの?」
 「うん。しゅるの」
 「え??どんな?」
 「あのねー。うみのかいをはるの」
 「すごい!だ!」
 きゃー。
 きゃー。
 ぱたぱたぱた。
 「父上。たち、おかいものしました。きぞくのぎむできてました?」
 「!ありがとござましゅ。くださいなできました!ぐるぐるしました」
 「けいざいグルグル?」
 とユリアン。
 「ユリアン兄様、ルゼルは『経済を回した』と言ったのよ」
 子どもたちが一斉に笑った。

 ということは、これはこの家族には日常的な光景なのだ。
 「ないんしゃま、ありがとござましゅ!」
 丁寧にお礼に来た二人にジルは何と返したか覚えていなかった。
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