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第三章
第三十五話 ヴァジュラとアロン。〜リオンとルゼルは過剰に綺麗。
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今、ヴァジュラとアロンは王宮の中庭で向かいあっている。
お互い無言で向かいあっている。ヴァジュラの眼力を正面から受け止めていられるアロンはなかなかの人物だ。
近くの四阿では、王妃マディとリディラとマーリン、それにリオンとルゼルもいる。五人はヴァジュラとアロンを眺めている。
国立幼稚園計画が着々と進み、園舎は中等学園敷地内にできることが決まり、秋には完成する。入園児もほぼ内定した。もちろんリオンとルゼルは対象児だ。
そこで王宮で問題になったのが、ヴァジュラの遊び相手だ。今まではリオンとルゼルの二人だったが、この二人が幼稚園に行くとなると平日のヴァジュラの遊び相手がいなくなる。一時期アロンも遊び相手候補として何度か顔合わせをしたが、アロンが体調を崩しやすいため、一年近く正式な遊び相手はしていなかった。さて、どの家門の令息をと話があがった時、当のヴァジュラから「アロンがいい」と希望が出された。
確かに久しぶりに会った王宮雪合戦の時も、マグヌス誕生会で象の小道具で遊び合う時も二人は楽しそうだった。アロンの体調もアロンがカタコトを話すようになってから体調を崩しても以前のように長引くことがなくなったので、あらためて二人の顔合わせをすることになって今に至る。
先に口火を切ったのはヴァジュラだ。
「おまえ、かお、きれいだ」
これが久しぶりに会ったアロンに対するヴァジュラの言葉だった。
「ううん。るぅるぅ、きれい」
これがアロンの返事だった。
「るぅるぅ、なに?」
眉間にシワを寄せて首を傾げるヴァジュラはそれだけで迫力がある。
「るぅるぅ」
と言って、アロンは一緒に来ているルゼルを指差した。そちらを見てルゼルのことと察したヴァジュラは
「うん、るぅるぅ、かお、かじょーにきれい」
と言ってカカカカッと笑った。
「かじょー?」
今度はアロンが首を傾げる。普通に天使の愛らしさだ。
「かじょーは、いっぱい。かじょーは、とっても」
とヴァジュラは両手を広げて説明する。勢いよく上げた手に蜂が当たって落ちたがヴァジュラは気づかなかった。
「うん。るぅるぅ、かじょー、きれい!」
アロンは兄が褒められたと察して、ヴァジュラの真似をして両手を広げて言った。そして、
「りろん、かじょー、きれい!」
と言った。りろんはリオンだとヴァジュラに伝わったらしい。
「うん。りろん、かじょー、きれい。るぅるぅ、りろん、かじょーかじょー」
「うん。かじょー」
きゃー。
うおー。
なんだか意気投合した。それを見ていたマディが
「2歳児にも特別綺麗だってわかるねのね、やっぱり二天使ちゃんたちは特別ね」
と言って、ふふふと笑う。
今日はマーリンが祖母ステラ先王妃にお呼ばれして来るとわかっていたので、あえてアロンたちをこの日に呼んだのだ。マーリンがいると言えばリディラも呼びやすくなる。それに先日のマグヌス誕生会でマーリンとリディラは気が合いそうだとも思っていたので、二人の橋渡しもしたかった。
「二天使?」
マーリンが小首を傾げて言う。美しい金髪に澄んだ翠の瞳が映える。
「ふふふ。騎士たちがね、二人のことをそう呼ぶのよ。それが侍女たちも言うようになって、今では王宮の者たちはリオンとルゼルをそう呼ぶわ。ね、リオン?」
「んー?騎士様、私のことリオン様、よびます。ルゼルのことルゼル様、呼びます」
「あらまぁ」
と言ってマディは楽しげに笑った。
リオンとルゼルは今日は四阿でマディたちとお茶をしながらお菓子を食べてヴァジュラたちを見守るお兄さんの役だ。こんなこと初めてなので二人とも少し緊張している。特にルゼルはアロンの心配で忙しい。
「アロン、ちいさいちいさいです。ヴァジュラ殿下、まてまてできるか、しんぱいです」
ルゼルは自分でも追いつけないヴァジュラにアロンが追いつけないことでヴァジュラに怪我をさせるのではと昨日から心配していた。追いかけて転んでアロンが怪我をするかもということも心配していた。
「ヴァジュラは…まぁ心配ないわ。アロンは…少し心配ね」
とマディ。と、ヴァジュラが走り出した。
「アロン、こい」
「わかった」
アロンはためらう様子なくヴァジュラの後を追って行き、すぐにまかれた。
「ゔぁじゅらしゃまん!いない!」
立ち止まったアロンが冷静に言った。あたりから、ザンッザンッという音が時々聞こえる。
「まだ歩道ができてない道があるのよね」
とマディはのんびり言ったが、ルゼルはハラハラしていた。ヴァジュラを見失ってアロンが泣いてしまうのではないかと思ったのだ。自分なら泣く。実際ヴァジュラを見失って度々泣いた。
だが、アロンは慌てることなく、スッと息を吸うと、あまり大きくはないがよく通る声で
「ゔぁじゅらしゃまーん」
と呼んだ。
ザンッという音が聞こえなくなると同時に
「ここー」
と、アロンより大きなヴァジュラの声が聞こえた。
「ゔぁじゅらしゃまん、いた」
アロンはその声のする方向に笑って走って行った。
「はわ。アロン、かっこいいです。兄上みたいです」
「うん。ルゼなら泣いちゃうものね」
リオンとルゼルがビックリした顔で頷き合う。それを見たマーリンが
「素直で可愛らしいのね、二天使様は」
と言うと、リディラが満足げに
「ええ、ええ、そうなのです」
と早口で答える。
そしてひとしきりヴァジュラとアロンのワァワァきゃぁきゃぁ言う声を聞いて楽しんでいた。
走るだけ走ったヴァジュラとアロンは、噴水の縁に座って涼んでいた。
ヴァジュラがアロンに聞く。
「おまえ、からだよわい?」
ヴァジュラは度々アロンが熱を出して遊び相手の日に来られなかったことを覚えていた。
アロンが答える。
「うん。よわい」
「まえより、つよい?」
「うん」
「なんで?」
「んとねー、『るぅるぅ』いうといい」
「『るぅるぅ』いうだけ?」
「んとねー、ここ、るぅるぅ」
とアロンは自分の頭を指差して言う。ルゼルを思い浮かべながら「るぅるぅ」と言うと元気になるということらしい。
「ふーん。るぅるぅ、かじょー、すごい」
この会話は実はものすごい内容なのだが、噴水の音で護衛騎士にも侍従や従者にも聞こえなかった。
この日の二人の様子を見て、アロンはヴァジュラの遊び相手になることが正式に決まった。
リオンもルゼルもまた一緒にアロンと王宮に行けるようになったと喜んだ。
マーリンとリディラも着々と友情を深め、近々ホーリィ邸にお呼ばれする約束をした。
リオンとルゼル、4歳直前の日のことだった。
お互い無言で向かいあっている。ヴァジュラの眼力を正面から受け止めていられるアロンはなかなかの人物だ。
近くの四阿では、王妃マディとリディラとマーリン、それにリオンとルゼルもいる。五人はヴァジュラとアロンを眺めている。
国立幼稚園計画が着々と進み、園舎は中等学園敷地内にできることが決まり、秋には完成する。入園児もほぼ内定した。もちろんリオンとルゼルは対象児だ。
そこで王宮で問題になったのが、ヴァジュラの遊び相手だ。今まではリオンとルゼルの二人だったが、この二人が幼稚園に行くとなると平日のヴァジュラの遊び相手がいなくなる。一時期アロンも遊び相手候補として何度か顔合わせをしたが、アロンが体調を崩しやすいため、一年近く正式な遊び相手はしていなかった。さて、どの家門の令息をと話があがった時、当のヴァジュラから「アロンがいい」と希望が出された。
確かに久しぶりに会った王宮雪合戦の時も、マグヌス誕生会で象の小道具で遊び合う時も二人は楽しそうだった。アロンの体調もアロンがカタコトを話すようになってから体調を崩しても以前のように長引くことがなくなったので、あらためて二人の顔合わせをすることになって今に至る。
先に口火を切ったのはヴァジュラだ。
「おまえ、かお、きれいだ」
これが久しぶりに会ったアロンに対するヴァジュラの言葉だった。
「ううん。るぅるぅ、きれい」
これがアロンの返事だった。
「るぅるぅ、なに?」
眉間にシワを寄せて首を傾げるヴァジュラはそれだけで迫力がある。
「るぅるぅ」
と言って、アロンは一緒に来ているルゼルを指差した。そちらを見てルゼルのことと察したヴァジュラは
「うん、るぅるぅ、かお、かじょーにきれい」
と言ってカカカカッと笑った。
「かじょー?」
今度はアロンが首を傾げる。普通に天使の愛らしさだ。
「かじょーは、いっぱい。かじょーは、とっても」
とヴァジュラは両手を広げて説明する。勢いよく上げた手に蜂が当たって落ちたがヴァジュラは気づかなかった。
「うん。るぅるぅ、かじょー、きれい!」
アロンは兄が褒められたと察して、ヴァジュラの真似をして両手を広げて言った。そして、
「りろん、かじょー、きれい!」
と言った。りろんはリオンだとヴァジュラに伝わったらしい。
「うん。りろん、かじょー、きれい。るぅるぅ、りろん、かじょーかじょー」
「うん。かじょー」
きゃー。
うおー。
なんだか意気投合した。それを見ていたマディが
「2歳児にも特別綺麗だってわかるねのね、やっぱり二天使ちゃんたちは特別ね」
と言って、ふふふと笑う。
今日はマーリンが祖母ステラ先王妃にお呼ばれして来るとわかっていたので、あえてアロンたちをこの日に呼んだのだ。マーリンがいると言えばリディラも呼びやすくなる。それに先日のマグヌス誕生会でマーリンとリディラは気が合いそうだとも思っていたので、二人の橋渡しもしたかった。
「二天使?」
マーリンが小首を傾げて言う。美しい金髪に澄んだ翠の瞳が映える。
「ふふふ。騎士たちがね、二人のことをそう呼ぶのよ。それが侍女たちも言うようになって、今では王宮の者たちはリオンとルゼルをそう呼ぶわ。ね、リオン?」
「んー?騎士様、私のことリオン様、よびます。ルゼルのことルゼル様、呼びます」
「あらまぁ」
と言ってマディは楽しげに笑った。
リオンとルゼルは今日は四阿でマディたちとお茶をしながらお菓子を食べてヴァジュラたちを見守るお兄さんの役だ。こんなこと初めてなので二人とも少し緊張している。特にルゼルはアロンの心配で忙しい。
「アロン、ちいさいちいさいです。ヴァジュラ殿下、まてまてできるか、しんぱいです」
ルゼルは自分でも追いつけないヴァジュラにアロンが追いつけないことでヴァジュラに怪我をさせるのではと昨日から心配していた。追いかけて転んでアロンが怪我をするかもということも心配していた。
「ヴァジュラは…まぁ心配ないわ。アロンは…少し心配ね」
とマディ。と、ヴァジュラが走り出した。
「アロン、こい」
「わかった」
アロンはためらう様子なくヴァジュラの後を追って行き、すぐにまかれた。
「ゔぁじゅらしゃまん!いない!」
立ち止まったアロンが冷静に言った。あたりから、ザンッザンッという音が時々聞こえる。
「まだ歩道ができてない道があるのよね」
とマディはのんびり言ったが、ルゼルはハラハラしていた。ヴァジュラを見失ってアロンが泣いてしまうのではないかと思ったのだ。自分なら泣く。実際ヴァジュラを見失って度々泣いた。
だが、アロンは慌てることなく、スッと息を吸うと、あまり大きくはないがよく通る声で
「ゔぁじゅらしゃまーん」
と呼んだ。
ザンッという音が聞こえなくなると同時に
「ここー」
と、アロンより大きなヴァジュラの声が聞こえた。
「ゔぁじゅらしゃまん、いた」
アロンはその声のする方向に笑って走って行った。
「はわ。アロン、かっこいいです。兄上みたいです」
「うん。ルゼなら泣いちゃうものね」
リオンとルゼルがビックリした顔で頷き合う。それを見たマーリンが
「素直で可愛らしいのね、二天使様は」
と言うと、リディラが満足げに
「ええ、ええ、そうなのです」
と早口で答える。
そしてひとしきりヴァジュラとアロンのワァワァきゃぁきゃぁ言う声を聞いて楽しんでいた。
走るだけ走ったヴァジュラとアロンは、噴水の縁に座って涼んでいた。
ヴァジュラがアロンに聞く。
「おまえ、からだよわい?」
ヴァジュラは度々アロンが熱を出して遊び相手の日に来られなかったことを覚えていた。
アロンが答える。
「うん。よわい」
「まえより、つよい?」
「うん」
「なんで?」
「んとねー、『るぅるぅ』いうといい」
「『るぅるぅ』いうだけ?」
「んとねー、ここ、るぅるぅ」
とアロンは自分の頭を指差して言う。ルゼルを思い浮かべながら「るぅるぅ」と言うと元気になるということらしい。
「ふーん。るぅるぅ、かじょー、すごい」
この会話は実はものすごい内容なのだが、噴水の音で護衛騎士にも侍従や従者にも聞こえなかった。
この日の二人の様子を見て、アロンはヴァジュラの遊び相手になることが正式に決まった。
リオンもルゼルもまた一緒にアロンと王宮に行けるようになったと喜んだ。
マーリンとリディラも着々と友情を深め、近々ホーリィ邸にお呼ばれする約束をした。
リオンとルゼル、4歳直前の日のことだった。
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