金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第十五話 お約束は沢山あるみたい。ヴァジュラ殿下はお約束知らないみたい〜ライラさんはステキステキです

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 幼稚園がお休みの日に、リオンとルゼルとアロンは王城に赴いた。ヴァジュラの遊び相手の日だ。
 リオンたちが幼稚園に入園してから初めての登城だ。最近は一人で登城していたアロンも今日は兄たちと一緒なので喜んでいる。
 「アロン、ヴァジュラ殿下は私たちがいないいないの時もびゅんびゅんて走ってますか?」
 質問したのはリオンだ。
 過日のお外を歩く練習での先生の教えに、ヴァジュラはことごとく合っていない気がしたからだ。
 「あい。ヴァジュラしゃまん、びゅんびゅんびゅーん」
 アロンは両手を左右に素早く動かしてヴァジュラの動きを説明する。これは兄ルゼル直伝の表現だ。
 「うーん」
 アロンの返事を聞くと、ヴァジュラは前にも増して走り回っているようだ。「びゅんびゅん」の後に「びゅーん」がつくことから想像するとそうなる。多分想像が外れてはいない。
 三人はそれぞれの護衛たちを従えて城内を歩いている。三人に先立って歩くのはヴァジュラの待つ部屋まで案内する王城で働く者だ。
 こうして見ると外でない場所でも歩くときには約束事があるようだ。
 リオンの知りたいスイッチが入る。
 「騎士様騎士様、どうして騎士様たちはいつも私たちの後ろ何ですか?私たちの前に案内するの人がいます。私たちがいます。その後ろに騎士様たちいます。お城では歩くの順番があるのですか?」
 チラチラと後ろを向きつつ、転ばないように前も確認しながら歩くリオンは可愛い。
 今日の護衛担当のヨハンが「はぁ、リオン天使、今日も激カワ」とか思っているとキーツがしっかりと答えた。
 「順番と言いますか…基本的に左側を歩くことになっています。そして大体の時は身分の高い方々から順に歩きます。例外もあります。今のように案内する者などがいる場合は身分の高い方より前を歩くことになります」
 ふむ。やはり何か法則があるようだ。リオンが続ける。
 「走るの人はどこを走りますか?」
 「基本、城内では走りません。ただ緊急を知らせる者は走るので、その者は廊下の中央を走ります」
 「真ん中。みんな左側にいるから真ん中が空くですよね。それに曲がり角から出てくるの人とも真ん中ならぶつかりにくいです…。
 それとそれと、騎士様たちがいつも後ろにいてくれるのも、身分の順番とは違いますよね」
 「はい。我々はリオン様方をお守りするお仕事中なので、お守りしやすい位置、かつ、お邪魔にならない場所におります」
 「お仕事と身分はどちらにしようかなの時もありますよね?」
 「どちらにしようかなの時ですか?」
 キーツだけでなく、他の騎士たちもこれはハテナだ。するとルゼルが、
 「えとえと、新年会のとき、騎士様は私たちの近くにでいました」
 ああ、あの丸見え手品でお花をくださった新年会ですね。あの時の二天使は突き抜ける可愛さだったな、と騎士様の回想。
 「でもでも、だんちょ様とふくだんちょ様は騎士様してなかったです。あっ、あっ、ホンモノだんちょ様とホンモノふくだんちょ様のことです」
 ルゼル様は、私たちの模擬戦での団長たちの真似を見てから本物かどうか分けて言う。こちらは分けなくてもわかるんだけど律儀で可愛い。で、新年会が何でしょう?
 「新年会の時、騎士様、だんちょ様、ふくだんちょ様、お仕事と身分となんで違うになったのですか?」
 なるほど。リオン様は新年会で団長や副団長が騎士としてではなく、貴族として参加されていたことを言っていたのか。それを「どちらにしようかなの時」って、あれだけでルゼル様には伝わるのか…本気で二天使なんじゃない?なんか人外だよこのお二人…。
 「そうですね、どちらにしようかなの時はその人の立場によりますね。新年会は基本的に侯爵以上の者は仕事より身分を優先です。伯爵以下でも陛下から爵位を賜った者はやはり仕事より身分優先となります」
 そういえば二天使は団長が侯爵ってご存知なのかな?副団長が伯爵ということも。
 「ありがとうございます。よくわかりました。団長様は侯爵より上ーぇの人なんですね。副団長様は伯爵様でしたよね。だから副団長様の伯爵は陛下がしたんですね」
 賜ることをなんて。なんて可愛い。それより本当に賢いな…。
 「そうですね。団長様は侯爵様でもあられます」
 「アロン!だんちょ様は侯爵で父上とおんなじおんなじだって!」
 「きゃー」
 「きゃー」
 …いやいやいや、クイン侯爵家はなんで侯爵家なの?というくらい別格ですから、ルゼル天使…自分の家を普通の侯爵家と思わないで。
 そしてリオン様の質問は続く。
 「あのね、私、幼稚園に入ったの」
 「はい、存じております」
 あの新聞に載った写真。入園式の集合写真。二天使が正面からこっち見てる写真。詳細わからないくらい小さく写っているけどなんだか二天使のところだけ輝いてましたよ。
 「入園式の時にね、お名前呼ばれたの。お名前呼ぶのも順番があるってわかったの。それで今も歩くの順番あるんだなってわかったの。それで思い出したのだけど、騎士様はホンモノの場所でえいっえいってする時に順番とか、ここにいるよーの場所を決めているでしょう?」
 難しい言い回しですが、だんだん慣れてきています。これはあれでしょう、ホンモノの場所とは戦場。え?だとすると戦う時の配置のこと言ってますか?
 ここでギンが口を挟む。
 「リオン様失礼します。それは戦場での配置の話でしょうか?だとすると何故そう思われたか伺っても?」
 リオンがキョトンとした顔をした。
 「違いましたか?騎士様の練習観に行った時に、右側に強いよーの騎士様と左側に強いよーの騎士様が一緒に練習していたし、最初は後ろの方にいて後から前ーぇに出るの動きしてる騎士様もいたのでそう思ったの。です」
 「リオン、それ私知ってる。いうんだよー。えいってする時に勝てるぞの場所に一番合う人を置くのだって。アネーレが言ってた」
 「ハイジン…」
 リオンは繰り返してインプット。
 「…リディラ様がそのような事を…お詳しいのですね」
 ギンが苦笑いをした。他の騎士たちは驚きを隠すことに専念だ。リディラ様、時々登城されるが、マグヌス殿下が眼中にない、珍しいお嬢様だ。やはりルゼル天使の姉君だなと騎士たちは、思う。
 そんな騎士たちには気づかず、リオンが納得の顔で言う。
 「色々なものに色々な並びがあって、意味があるのですね…でもでもヴァジュラ殿下はなんだか違うです…どうしてですか?」
 なんという難問を‼︎
 「それ、私も知りたいです!ヴァジュラ殿下はどうして歩道を歩かないですか⁉︎」
 なんとピンポイントで聞いてくるのか⁉︎
 「ヴァジュラしゃまん。かじょー」
 アロンが眉間にシワを寄せて言う。アロンもヴァジュラには思うところがあるらしい。
 続けてアロンがハッとした顔から笑顔になって「ヴァジュラしゃまん!」と言った。
 ほどなく、ドカドカと大きな足音が聞こえてきた。ヴァジュラの走る音に違いない。
 「うおー」
 声が聞こえる。間違いないヴァジュラだ。
 すると少し先の曲がり角からヴァジュラが飛び出して来た。
 「ヴァジュラしゃまん!」
 両手を挙げて笑ったのはアロン。
 「ヴァジュラ殿下!コロンてなります!」
 焦って手をハタハタさせたのはルゼル。
 「ヴァジュラ殿下はやっぱりお約束と違う」
 と呟いたのはリオン。
 おそらく三人を待ちきれなかったヴァジュラは、三人が到着したという先触れを聞いて飛び出してきたのだろう。正面から見ると小ぶりな岩が飛んでくるような迫力がある。案内人としてリオンたちの前にいた者は、勢いでリオンたちにヴァジュラがぶつかるのではと不安になり、自分がリオンたちの盾になるべきか、それはヴァジュラに対して不敬かで瞬間迷っていた。
 後ろからヨハンとギンが「これはぶつかる勢いですね」と言ってサッとリオンたちの斜め前に出てきた。それを見たリオンがポツリと
 「…ハイジン。ヴァジュラ殿下戦のハイジン…」
 と呟いたのをヨハンたちは聞いた(そして騎士寮の夕食の時間に話題にしまくった)。
 あと少しでヴァジュラが飛んでくるという直前、
 スパーン
 という音とともに品の良い白い扇がリオンたちの前に開かれた。同時にヴァジュラがピタリと止まった。
 「ヴァジュラ殿下」
 落ち着いた声が責め気味にヴァジュラの名を呼ぶ。
 「ライラ…」
 ヴァジュラが眉を下げて言う。
 副侍女長のライラだ。ライラがリオンたちが危険と見て登場したのだ。
 ライラはしゃがんで視線をヴァジュラに合わせた。
 「ヴァジュラ殿下」
 「…すまん。ワシ走った。ダメ、忘れた」
 「はい。ライラにはわかりますよ。殿下は早く早くリオン様方にお会いしたかったのですよね」
 「そうだ」
 「わかっていても、走ってしまうヴァジュラ殿下のことも良くわかっておりますよ」
 「すまん。ライラ。もう、すまん」
 なにやらヴァジュラが慌てているように見える。ヴァジュラが手を前に出して振りながら首も左右に振っている。
 「はい。ライラは殿下が反省しているのもよくわかっておりますよ」
 「ライラ、もう、すまん」
 「ライラが言いたいのは、殿下がそのように走り出してしまうとわかっているのにお止めしない侍従たちは、いったい、何を、して、いたのかっ、と、いうことです」
 もちろんその頃にはヴァジュラの侍従たちもここに到着している。みんな真っ青だ。ただ侍従たちは理解している。これは侍従たちではなくヴァジュラに言っているのだと。
 「ライラ、すまん」
 「ヴァジュラ殿下は反省されているのですから、謝る必要はございませんよ。あくまで侍従たちに言いたいのです」
 「ちがう!ライラ、すまん!ワシ、みんなドーンで来たー!みんな、悪くない。ライラ、すまん!次はそっとそっとするーぅ‼︎」
 突き飛ばさないよう気をつけるだけで、飛び出すし、走るのは変えないのだなと周囲が思う。だが、無理な約束をしないヴァジュラは誠実だ。
 「そうですね、ヴァジュラ殿下。できそうなところからしっかり守っていきましょうね。そうでないと…」
 ためるライラはしゃがんでいても迫力がある。
 「…いつか、大事な人たちとヴァジュラ殿下が大きな怪我をなさいます」
 「骨折?」
 ヴァジュラが聞いた。ヴァジュラの実感できる怪我は骨折だ。擦り傷は怪我のうちに入らない。
 「骨折ぐらなら良いのですが…骨折より過剰な怪我かもしれませんね…」
 「うお…」
 ヴァジュラは真っ青だ。
 「わかった。ドーンはそっとそっとする」
 「はい。ドーンはそっとそっとです。そしてドーンしなくて良くなるように、『どいて』と言えるように少しずつ頑張りましょうね」
 「わかった」
 ライラの話が終わってもヴァジュラはその場から動かずにライラとリオンたちを見比べながら立っていた。…ヴァジュラが何かを考えて止まっているのだ。こんなヴァジュラを今まで見たことがない。
 「あの…ライラ…」
 「はい。もうリオン様たちとお話してよろしいですよ。ただし…?」
 「ドーンなし。歩く。てくてく」
 「そうですね」
 そう言ってライラはにっこり笑って立ち上がった。
 「では殿下、皆様方、失礼いたします」
 「おー、ライラ!」
 そう言ってヴァジュラはライラにぶんぶんと手を振って見送った。そして侍従たちに「すまん。骨折したか?」と聞き、侍従たちが首を振るとホッとした顔になり、クルリとリオンたちに向き直って「てくてく。てくてく。ドーンなし」と呟きながらかなりの速歩きで来た。
 「ヴァジュラ殿下が…」
 「てくてくしてます」
 「ヴァジュラしゃまん、てくてく…」
 三人はヴァジュラなりにゆっくり意識して歩く様子に驚いた。
 「ライラ殿は凄いな」
 「扇で品良く止めたな」
 「流石、騎士の妻のかがみだ」
 と、騎士たちが感心する。
 リオンたちも
 「ライラ様、かっこいい」
 「ライラ様、ヴァジュラ殿下をドーンの危機からすくったね」
 …救われたのはリオンたちだが…。
 「ヴァジュラしゃまん。てくてく」
 リオンとルゼルはライラにすっかり魅了されていた。
 そして、ヴァジュラはいつかちゃんと歩道も歩くだろうと、妙な安心もしたリオンとルゼルだった。
 
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