金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第二十四話・真実を告げる者〜それぞれの失恋

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 タオルに包まれたアロンと一緒に部屋に移動したマグヌスたち。
 今、マグヌスが椅子に座り、膝に両肘をつき、両手で額を軽く押さえている。マグヌスの前にはリオンとルゼルがやはり椅子に座りお行儀よく両手を膝に乗せてマグヌスを真っ直ぐ見ている。
 リゼルはアロンの横で「寒くないか?」と聞いている。「だじょぶでしゅ」とアロンが答え、その様子をヴァジュラが心配そうに見ており、さらにそれら全体をユリアンが見ていた。
 マグヌスは迷っていたが意を決して口を開いた。
 「あー…ライラのことだが…」
 そう言っただけでリオンとルゼルに落ち着きがなくなる。
 「ラ…ライラ様ですか?」
 「ライラ様…」
 この反応、間違いなく二人はライラが好きなんだと確信するマグヌスだが、万が一を考え、振り向いてアロンを見た。アロンはまだ着替えが届かずタオルから顔を出している状態だが、マグヌスの言わんとしていることがわかるかのようにタオルの中で真顔で頷いた。
 「ふー…」
 マグヌスは大きく息を吐くと一気に言った。
 「ライラは確かにステキな女性だ。だから、既にステキな男と結婚している。だから憧れるのは良いが、その…もう他の誰かのお嫁さんにはなれない」
 「え?え?え?」
 「え…あ?」
 リオンとルゼルはマグヌスの言っている意味がわかり、一瞬で絶望の顔になった。ここまではマグヌスもユリアンもリゼルも予想していたので、これからどう立ち直らせようかと考えていたが、予想外の反応が背後から聞こえた。
 「えーっ?ライラ…ライラー?」
 ヴァジュラだった。
 「えっ?ヴァ…ヴァジュラ…お前も?お前もライラが好きだったのか?」
 いつも冷静であれと言われ、そのように心がけていたマグヌスが椅子から立ち上がって言った。
 「ライラ…。ワシ、ライラ好きー。アロンの次に好きー。がーぁ!」
 ヴァジュラから変な声が出ている。嘆きか。
 「がーぁ、がーぁ…。アロンとは結婚できない言われたー。女の子としか結婚できないてー。だからライラと結婚するんだったのにー」
 マグヌスがヴァジュラの侍従イリヤを見る。イリヤが頷く。
 おそるべしライラ。二歳児までも…。
 マグヌスはヴァジュラに泣かれることに弱い。目の前で「ライラ様…人妻…」と呟いているリオンたちも気になるが後ろのヴァジュラも心配だ。失恋の痛みはマグヌスもよく知っている。
 これにはユリアンもリゼルも予想外ですぐには反応できなかった。しかしアロンは違った。冷静にヴァジュラに言った。
 「アロ、ヴァジュラしゃまん好きよー」にこっ。
 天使か!マグヌスは思わず声に出して言いそうだった。
 「天使か!アロン!」
 リゼルは声に出して言った。
 かなりな迫力で下がっていたヴァジュラの眉毛がスンッと上がった。
 「やっぱりワシ、アロンが一番!浮気すまん。もう、アロンだけ!」
 「いいよー」
 浮気?どこでそんな言葉覚えた?イリヤに問いただそうとした時にアロンの着替えが届いた。
 「ワシ!ワシがアロンに着せる!浮気のワビ!」
 「ヴァジュラ殿下、そんな乱暴にタオルをむしり取ってはいけません」
 「すまん。ワシ、ガサツ。父オーにソックリ。イリヤ手伝え」
 「きゃー、キャッキャ」
 乱暴に扱われたことのないアロンは、豪快なタオル剥ぎが意外と楽しかったようだ。とりあえずヴァジュラの失恋はあっという間にアロンに救われた感がある。それでは、あらためて目の前のリオンたちだ。
 リオンは両手の拳を強く握って下を向いている。ルゼルは困った顔でマグヌスを見ている。どんな顔でも美しいから困る。慰めの言葉が思いつかなくなる。
 そんなことをぼんやり考えているとリオンが言った。 
 「…お相手はどなたですか?」
 その声には、納得いかない相手なら自分が奪うくらいの熱がこもっている。
 「相手はキエル副団長だ」
 「えっ?」
 下を向いていたリオンが顔を上げた。意外にも笑顔だ。
 「ああ…リオンは副団長に憧れていたな」
 リゼルが小声でユリアンに言う。ユリアンも苦笑いで頷く。
 「ふくだんちょ様なら仕方ないです!流石ふくだんちょ様です!ふくだんちょ様、やっぱりカッコいいの人です!」
 リオンはそう言って椅子の上で興奮気味に跳ねている。一方のルゼルは、リオンと反対に暗い顔で
 「ホンモノふくだんちょ様、ライバル…高い壁…」
 と呟いている。
 ヴァジュラはというと、もうライラの失恋は忘れたようにアロンに服を着せることを楽しんでいる。リオンも相手が憧れの副団長ならと納得した様子だ。となると、あとはルゼルだけだ。ここはライラ失恋の先輩であるリゼルの出番だ。
 「ルゼル…。ライラは確かに素敵な女性だよ。だから素敵な人と結婚して幸せなんだ。ルゼルは泣いてるライラと笑っているライラとどちらが良い?」
 「ぐぅ…笑ってるライラ様…です」
 絞り出すような声で答えるルゼル。
 「だよね。私も笑っているライラが好きだよ。だからライラが悲しい顔をしていないか良く見てるんだ。もし悲しい顔をしたライラを見たら絶対キエル副団長を叱ってやろうと思ってね」
 「ライラ様の笑顔は私たちの手に?」
 「そう。ライラの幸せは私たちの手に」
 …なんだ?この兄弟は?シンパシーの方向がずれてやしないか?いや、今はルゼルを立ち直らせることが先決か…。
 「…わかりました、アニューレ。私はライラ様の幸せを…ぐすっ…見守ります…ぐすっ」
 「偉いぞルゼル」
 リゼルの一言でルゼルの何かが外れた。椅子から飛び降りてリゼルにしがみつくと
 「アニューレぇ…ふわわわぁん。アニューレぇ」
 と泣き出した。
 「…私たちの時はこんな真っ直ぐに泣けませんでしたよね。ルゼルはこういうところが凄いんだよなぁ…」
 そう呟くユリアンに
 「まぁ、私たちが泣いてもルゼルほど絵にはならないしな。かわいそうだが、泣き顔も天使が過ぎるんだよな、ルゼルは」
 そう答えるマグヌス。
 部屋の片隅にはやっとこさっとこ服を着せられたアロンと満足げなヴァジュラ。椅子の上には「やっぱりふくだんちょ様はすごいすごいです」と呟いているリオン。目の前には慰め合う兄弟。
 そういえば少し前にはハロルドが大暴れしていたんだよな…。
 なんだか色々あった一日だった。とりあえず一番危惧していたリオンとルゼルの失恋対応がなんとなく終わって良かった。自分は真実を伝える役目だけだったが、真実を告げることは意外と辛いということを学んだ次代の王マグヌスだった。

 後日談として…。
 騎士の練習に参加していたキエルがユリアンに聞いた。
 「あの…リゼル殿の視線がいつになく厳しく感じるのですが、何かご存知ありませんか?」
 「ああ…」
 思い当たるユリアンは微笑んで答える。
 「副団長様がルゼルを泣かせたからでしょうね」
 「は?私が?いや、記憶にないのですが…」
 慌てるキエル。「え?副団長、ルゼル天使泣かせた?」「は?副団長、ルゼル天使に何した?」周囲がざわつくなか、キエルが慌てる。それを見たユリアンがさらに言葉を足してくる。
 「副団長様が色男なことが原因かと…」
 「はあ?」
 「副団長…何したんですか?」
 何人かに聞かれ、全くわからないと焦りながら首を振るキエルを見て、「ふふふ。ちょっとした意趣返し。私もライラ失恋組だからね」と内心で呟くユリアンだった。
 
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