アリとキリギリス

イレイザー

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アリとキリギリス

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   これを読んでいる者が居たとすればきっと、僕はこの世にはいないでしょう。今この手紙を巣の中の、ある部屋で書いています。随分と地中深くにある部屋なので、奴らがここに辿り着くにはまだ、少しだけ時間がかかるでしょう。
   こんな理不尽な争いが起きたのは奴ら、キリギリス共が毎年毎年、冬に備えての貯蔵を怠った事にある。
   いや、こんな争いが起きてしまったのもきっと私たちアリのまるで、角砂糖の様に甘い性格も一つの要因なのでしょう。
   毎年毎年、僕たちはキリギリス共に食料を分けていた。僕たちは奴らとは違って夏の頃からコツコツ貯めていたから、多少奴らに分け与えたとしても、僕らは困りはしなかった。
   けれど、今年は一年を通じて不作の年だったんだ。それでも奴らはやってきた。
   「今年もどうか、私達共に恵んでください。」
   キリギリス共はそう言ってやって来る。
   「そうしたいのはやまやまですが、生憎今年は不作で、私達でさえ無事に、冬を越せるかどうかの瀬戸際なのです。どうか、どうか今年はお引き取り願います。」
   「私達の食料はとうの昔に尽きているのです。餓死した仲間も少なくはありません。」
   確かに奴らはかなりやつれているように見えていた。
   「何でもいいのです!どうか少しだけ!」
   キリギリス共は決して引き下がらない。
   「何度も言わせないでください。無い物は無いのです!」 
   「そうですか・・・」
   流石の奴らも引き下がると思っていた私達は非常に愚かだった。
   仲間の叫び声と共に何か迫ってくるような、不安になるような音が近づいて来るのです。
   この、何百、何千といる私達の巣に奴らはたった五、六匹で攻め込んできたのです。
   奴らは鬼の様な形相で襲ってきました。
   奴らの高い戦闘能力に、私達は次々と殺されていきます。私達は数で攻めましたが、圧倒的な力の前には無力でした。
   文字通り虫けらの様に殺されていく仲間を見て私は恐怖を覚え、そして逃げました。
   力が無ければ奪われるのみなのです。優しさとは似つかわしい甘さなど持つからつけ込まれるのです。キリギリス共の頼みなど断っていればこんな事にならなかったのに!
   強さとは何か。弱ければ全て失う。食べ物も、仲間も。
   奪われ無いように私は戦う。一度は逃げてしまった私にその資格があるのかは分からないが。個々が強力な奴らに勝てるかは分からないが。
   物音が大きくなってきました。どうやら奴らがもうすぐやってきそうです。
   武器は己の意思のみ。
   死んで土に還るのであれば本望。
   それではまた来世で。
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