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第一話.時計屋の話
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昼休みの終わりって、独特の空気がある。校舎の廊下にはまだ誰かの笑い声が残っていて、教室の窓から差し込む日差しは、ほんの少し傾き始めている。チャイムまであと10分。僕は自分の席へ戻った。
教室の半分くらいはもう席についていて、誰かと喋っていたり、スマホをいじっていたり、ぼんやり窓の外を見ていたり。どこにでもある高校の、どこにでもある昼休みの終わりだ。
「なあ、時計って、止まったことある?」
僕が椅子に腰を下ろしたその瞬間、前の席のヒバリが、ぐるんと半身をこちらに向けてきて言った。
僕は無言で教科書を出しながら、心の中で「来たな」と思った。ヒバリ。それが、彼のあだ名、名字でも名前でもなく、勝手に皆がいつからかそう呼んでいる。ヒバリの話はいつも唐突で変だ。
いや、もっと正確に言えば、「どうせ嘘だろ」って思うような話を、本気か冗談かわからない顔で語るやつだった。それでいて、妙に話がうまいものだから、ついつい聞かされてしまう。
「時計が止まるって、電池切れとかの話?」
「そうじゃなくて。時間そのものが、って話。ピタって、空気まで止まる感じ」
彼は、どこかうれしそうに言った。
僕は無言でプリントを取り出した。次の授業の宿題のプリントだ。
「この前、変な店に入ったんだよ。時計屋なんだけど、店の中の時計が全部、同じ時刻を指してた」
「へえ」
「13時13分13秒。全部その時間で、カチカチって音だけ響いてて。誰もいないのに、って思ったら、奥からおじいさんが出てきてさ」
僕はふと顔を上げた。彼は身を乗り出して、僕の表情をうかがおうとしていた。この時点で、だいたい彼の話の結末は予測がつく。だけど、最後まで聞かないと気が済まない。そういう不思議な力が、彼の話にはある。
「で、そのおじいさんが言ったんだ。『時間を買いに来たのか?』って。声、めちゃくちゃ低くて、地面から聞こえるみたいな」
「それ、夢とかじゃなくて?」
「いやいや。ちゃんと目、覚めてたし。外に出たら時間止まってたから」
「外に出たら?」
「うん。街全体がカチッて止まった。車も、風も、人も。僕だけが動けて、他は全部静止画みたいだった」
「へぇ」
「30秒ぐらいで終わったけどね。あれ、たぶん試供品だったと思う。“ちょっとお試しください”ってやつ。いいサービスだよな」
僕は苦笑いしながらプリントを確認する。大丈夫ちゃんと宿題はやっている。ヒバリの話は半分だけ聞いて、顔をまともに見ないようにした。ヒバリの話は、いつもこのくらいの濃度だ。ちゃんと“嘘とわかる嘘”だから、気にしない。でも、完全に笑い飛ばせない妙な湿り気が残る。
「だから今日は、なんか時間に余裕ある感じがするんだよな。気のせいかなあ」
「そりゃ気のせいだろ」
「なんだよ、信じてないのか?」
「信じるほうが難しいだろ。ていうか、それ時間泥棒じゃん」
「おっ、うまいこと言うじゃん。ああ、だから宿題終わっていないんだ。やったはずなのに」
空白のプリントを僕に見せて、そう言った。そういう事か、僕は納得してにやにやした。次の授業は宿題にうるさい先生だ。チャイムが鳴るまで、あと数分。ヒバリが怒られている姿が目に浮かぶようだった。
午後の時間は、確かに進んでいた。そのはずだ。
教室の半分くらいはもう席についていて、誰かと喋っていたり、スマホをいじっていたり、ぼんやり窓の外を見ていたり。どこにでもある高校の、どこにでもある昼休みの終わりだ。
「なあ、時計って、止まったことある?」
僕が椅子に腰を下ろしたその瞬間、前の席のヒバリが、ぐるんと半身をこちらに向けてきて言った。
僕は無言で教科書を出しながら、心の中で「来たな」と思った。ヒバリ。それが、彼のあだ名、名字でも名前でもなく、勝手に皆がいつからかそう呼んでいる。ヒバリの話はいつも唐突で変だ。
いや、もっと正確に言えば、「どうせ嘘だろ」って思うような話を、本気か冗談かわからない顔で語るやつだった。それでいて、妙に話がうまいものだから、ついつい聞かされてしまう。
「時計が止まるって、電池切れとかの話?」
「そうじゃなくて。時間そのものが、って話。ピタって、空気まで止まる感じ」
彼は、どこかうれしそうに言った。
僕は無言でプリントを取り出した。次の授業の宿題のプリントだ。
「この前、変な店に入ったんだよ。時計屋なんだけど、店の中の時計が全部、同じ時刻を指してた」
「へえ」
「13時13分13秒。全部その時間で、カチカチって音だけ響いてて。誰もいないのに、って思ったら、奥からおじいさんが出てきてさ」
僕はふと顔を上げた。彼は身を乗り出して、僕の表情をうかがおうとしていた。この時点で、だいたい彼の話の結末は予測がつく。だけど、最後まで聞かないと気が済まない。そういう不思議な力が、彼の話にはある。
「で、そのおじいさんが言ったんだ。『時間を買いに来たのか?』って。声、めちゃくちゃ低くて、地面から聞こえるみたいな」
「それ、夢とかじゃなくて?」
「いやいや。ちゃんと目、覚めてたし。外に出たら時間止まってたから」
「外に出たら?」
「うん。街全体がカチッて止まった。車も、風も、人も。僕だけが動けて、他は全部静止画みたいだった」
「へぇ」
「30秒ぐらいで終わったけどね。あれ、たぶん試供品だったと思う。“ちょっとお試しください”ってやつ。いいサービスだよな」
僕は苦笑いしながらプリントを確認する。大丈夫ちゃんと宿題はやっている。ヒバリの話は半分だけ聞いて、顔をまともに見ないようにした。ヒバリの話は、いつもこのくらいの濃度だ。ちゃんと“嘘とわかる嘘”だから、気にしない。でも、完全に笑い飛ばせない妙な湿り気が残る。
「だから今日は、なんか時間に余裕ある感じがするんだよな。気のせいかなあ」
「そりゃ気のせいだろ」
「なんだよ、信じてないのか?」
「信じるほうが難しいだろ。ていうか、それ時間泥棒じゃん」
「おっ、うまいこと言うじゃん。ああ、だから宿題終わっていないんだ。やったはずなのに」
空白のプリントを僕に見せて、そう言った。そういう事か、僕は納得してにやにやした。次の授業は宿題にうるさい先生だ。チャイムが鳴るまで、あと数分。ヒバリが怒られている姿が目に浮かぶようだった。
午後の時間は、確かに進んでいた。そのはずだ。
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