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第一話.時計屋の話
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午後の教室、授業を受けながら、ヒバリの話が頭の中でくるくると回っていた。
時計屋。13時13分13秒。止まった街。
あんなの嘘に決まってる。いつものヒバリのやつだ。だけど、妙に細部が生々しいのが気にかかる。そういえば、プリントを集める気配もない。いつもだったら、授業が始まって、少ししてから集めるのに。ふと時計を見る。13時14分。時間はちゃんと動いている。
休み時間になって、ヒバリがまたこちらを振り向いた。
「店の名前は?」
「ん?」
「さっきの話」
なぜか無性にヒバリの話を否定したくなって、そう聞いてしまった。作り話なら詳細は答えられないだろう。
「古時計商会っていう看板がかかっていたけど、あれが店の名前かな」
そんな風に言う。
「図書館のちょい先。坂を下ったとこにある細い道の途中。ちっちゃい木の看板が出てて、すごく目立たない」
「そんなところに店あったっけ?」
言っている場所は何となくわかったけど、店があるイメージはなかった。
「それがあるんだよ。不思議だろ。つい最近まで無かった気がするのに、この間、ふと歩いてたら、そこだけ時間が違う空気だった」
微妙にさっきと言っているニュアンスが違うような気がするけど、こういうところがもしかしたらと思わせるところでもある。ヒバリは、独特の話し方をする。声は落ち着いているのに、言葉の端々が妙に熱を帯びている。
「店のドアを開けたら、カラカラって鈴が鳴って、中に入るとさ、時計が……なんて言えばいいかな、“歩いてる感じ”?」
「歩く?」
「動いてるんだよ。壁の時計が、ぐるって回るし、柱時計が息してるみたいに揺れてるし。ゼンマイの音が脈打ってる感じ」
「うそくさ」
「まあ、そう思うだろうけど……おじいさんが言ったんだよ。『あんた、時間が欲しい人だな』って。で、棚から小さい金色の懐中時計を出してきて、『30秒ぶん、進呈しよう』って渡されたんだ」
「くれるのかよ」
「そう。試供品ってやつだって。そしたら店を出た瞬間、街が止まった。静かすぎて、自分の心臓の音がやたら響いた」
そこまで話して、ヒバリは不意にカバンをごそごそと漁った。何かを取り出すような素振りを見せて、でもそのまま何も言わず、手を止めた。
「まあ、今日はここまでにしとくか」
「は?」
「話ってのは、引き際が大事だからな。続きを知りたきゃ、また明日」
ヒバリはそう言って、椅子にもたれかかった。その顔は、どこか満足げで、でもどこか寂しそうにも見える。こういう部分も何というかずるいと思わせる。嘘と断定するのはたやすいがそうじゃない何かを感じてしまうのだ。
僕は仕方なく机の上を片づけて、次の授業の準備を始めた。
時計屋。13時13分13秒。止まった街。
あんなの嘘に決まってる。いつものヒバリのやつだ。だけど、妙に細部が生々しいのが気にかかる。そういえば、プリントを集める気配もない。いつもだったら、授業が始まって、少ししてから集めるのに。ふと時計を見る。13時14分。時間はちゃんと動いている。
休み時間になって、ヒバリがまたこちらを振り向いた。
「店の名前は?」
「ん?」
「さっきの話」
なぜか無性にヒバリの話を否定したくなって、そう聞いてしまった。作り話なら詳細は答えられないだろう。
「古時計商会っていう看板がかかっていたけど、あれが店の名前かな」
そんな風に言う。
「図書館のちょい先。坂を下ったとこにある細い道の途中。ちっちゃい木の看板が出てて、すごく目立たない」
「そんなところに店あったっけ?」
言っている場所は何となくわかったけど、店があるイメージはなかった。
「それがあるんだよ。不思議だろ。つい最近まで無かった気がするのに、この間、ふと歩いてたら、そこだけ時間が違う空気だった」
微妙にさっきと言っているニュアンスが違うような気がするけど、こういうところがもしかしたらと思わせるところでもある。ヒバリは、独特の話し方をする。声は落ち着いているのに、言葉の端々が妙に熱を帯びている。
「店のドアを開けたら、カラカラって鈴が鳴って、中に入るとさ、時計が……なんて言えばいいかな、“歩いてる感じ”?」
「歩く?」
「動いてるんだよ。壁の時計が、ぐるって回るし、柱時計が息してるみたいに揺れてるし。ゼンマイの音が脈打ってる感じ」
「うそくさ」
「まあ、そう思うだろうけど……おじいさんが言ったんだよ。『あんた、時間が欲しい人だな』って。で、棚から小さい金色の懐中時計を出してきて、『30秒ぶん、進呈しよう』って渡されたんだ」
「くれるのかよ」
「そう。試供品ってやつだって。そしたら店を出た瞬間、街が止まった。静かすぎて、自分の心臓の音がやたら響いた」
そこまで話して、ヒバリは不意にカバンをごそごそと漁った。何かを取り出すような素振りを見せて、でもそのまま何も言わず、手を止めた。
「まあ、今日はここまでにしとくか」
「は?」
「話ってのは、引き際が大事だからな。続きを知りたきゃ、また明日」
ヒバリはそう言って、椅子にもたれかかった。その顔は、どこか満足げで、でもどこか寂しそうにも見える。こういう部分も何というかずるいと思わせる。嘘と断定するのはたやすいがそうじゃない何かを感じてしまうのだ。
僕は仕方なく机の上を片づけて、次の授業の準備を始めた。
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