白黒つけない魔女は裁判をする

#ミル

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1章~風の魔女~

プロローグ

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森の奥深く。
静かな朝、シルクのカーテンを光がやわらかく照らす小さな家。
その名も「魔女裁判所」
ここを仕切る魔女が、姉のフィーナだ。

「セレーネ~! 裁判所って何時からだったっけ~?」

フィーナは今日も片方だけ履いたスリッパを探してぐるぐる。
髪はクセがすごくて鳥の巣みたい。そんな見かけに反して、時代最強の魔女である。魔法勝負は歴代無敗。だけど日常は、まるでコント。

「お姉ちゃん、あと五分!それより、そのスリッパ右足二つ履いてるよ…!」

妹のセレーネは、今日も淡々と姉のボケに返しつつ、書類を整理している。しっかり者で頭の回転も早い。でも姉の変人ぶりには日々手を焼いている。

「だ、大丈夫!私の魔法ならスリッパの左右くらい…えいっ!」

フィーナがゆるーく唱えた呪文で、スリッパは片方だけピンク色になった。…これで合ってるのかどうかは本人しか分からない。

「……色を合わせる意味、ある?」

「え、ファッションは雰囲気だよ、雰囲気!」

「そういうことじゃないんだって…」

そんな軽妙なやりとりをしていると、扉がバンッ!と勢いよく開く。

「た、助けてください!ウチのドラゴンの卵が三つに割れて、どれが長男なのか分かりません!」

「ど、Dragon…?」

近所の騎士が、ドラゴンの卵をわちゃわちゃ抱えて駆け込んできた。

「なるほど、ふむふむ…。これは難事件だね!  セレーネ、この場合はどうしたらいいかな?」

「またすぐ他人に振った!魔女裁判所の長はお姉ちゃんだよ!」

「そっかそっか、じゃあ……みんなでドラゴンの赤ちゃんの好みを聞いて、順番決めよう! どれが長男でもきっと家族だよ!」

「白黒どころかグレーどころか虹色判決だよ、お姉ちゃん……」

でも不思議と、その提案に依頼人はほっとした顔をする。

いつものように、事件はユルく――けれど一番やさしいかたちで解決するのだった。

そう、この“白黒つけない最強魔女”の裁判所は、
今日もどこかちょっとズレてるけど、みんなが笑顔で帰っていく場所なのだ。
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