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心の廃れ
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窓ガラス越しでも、沖縄の陽射しは痛く光が虹色で眩しかった。
逆行線と共にやってくる湿気を含んだ穏やかな風が麻琴を不快にさせた。毎年、必ずやってくる風。そして、季節。
孤独が尚更、彼をイラつかせた。一向に受験勉強は捗る気配はない。
梨沙は専門であるリハビリテーションの学業にアルバイトにと忙しい日々を送っているようで、スマートフォンに着信があるどころかこちらがかけた携帯電話にも出てくれず、出ても事務的な事を5分から10分程度、近況を報告し合うぐらいだった。
梨沙を抱きしめるには、東京は遥か遠く、彼女が高校の時でならいくらでもお互いをどれだけ愛しているか確かめる時間などいくらでもあったが、今は麻琴の彼女への愛だけが一方的過ぎて、彼女からの愛は彼へとほとんど伝わってこなかった。
「梨沙ぁ~。会いたい・・・会わないとどうにかなっちゃいそうだわ。俺・・・」
予備校の自習室で次の授業が始まる二時間を待つのさえツラい孤独。
受験生にとっては天下分け目のGWの初日、勉強しなくてはならないことは、麻琴も百も承知。だが、この寂寥感は拭えない。
彼は机にうっぷして、目を閉じて、寝れなくても、少し休む心つもりでいた。
ーーコツッ・・・
「痛っ!」
麻琴の後ろから、何か小さいものが飛んできて頭にぶつかった。その飛翔体は彼の頭を飛び越え、彼の座っている机の上で止まった。
『ーーーまさか。このパターンは?』
麻琴は急ぎ仰け反るようにして後ろを向くと机の二列後段に真栄城千鶴が左肘を立てた手を左顎に乗せて微笑んでいる。
ついこの間まで、麻琴のすぐ近くにあった笑顔だ。
そして、右手人差し指で『下』を合図している。
「下?」
そう言うと彼女は笑顔で大きくうなずいた。
「下・・・下・・・と。」
麻琴は下を見て、先ほど自分に当たったと思われる小さな紙切れを拾い出した。それを千鶴に見せると彼女は嬉しそうに笑った。彼は紙切れを広げる。
「彼女と上手く行ってる?」
千鶴の字で可愛らしく、いつものmiffyのウサギのキャラクターもしっかり書いてあった。
彼は不躾に悔しそうに唇を噛んだ。
そうして、彼女が書いた紙の後ろに何かしら書いて、千鶴が座っている方向に顔も見ず投げ捨てた。
そこに、
『ちづには関係ない』
と、書いた。千鶴に引かれかけているのに、梨沙の電話を待っている自分が嫌で、東京の事が気になるのに、千鶴にこうして、気を使わせている。そんなどっちつかずの自分も嫌だった。
梨沙に出会う前、千鶴に出会う前なら高校内で適当に新しい尻の軽い女で、自らの若い勢いを済ませてしまったかも知れない。
しかし、それには梨沙と千鶴の二人の存在は麻琴の人生にとって、不可欠な要素であった。つまり、梨沙にない魅力を千鶴は持ち、千鶴にない価値を梨沙に見出だしていた。
梨沙を思うときには、必ず男女の交渉事が絡んでいた。
千鶴には梨沙ほど、セックスを感じていない。学力面での尊敬と畏怖である。
そういう意味合いでは、麻琴は千鶴を傷つけてしまっている。
千鶴は勉学のバートナーと成り得るが、セックスパートナーとは考えにくかった。如何せん、根が真っ直ぐで汚れ過ぎた自分は傍にいることさえ、憚られた。
彼女を傷着けてはいけない。無垢のままで、汚いモノは見ずに人生を歩んで欲しいのだ。麻琴はそう考えていた。
ーーコツッ・・・
また、頭に何か当たった。麻琴はガバッと起き上がって再び投げられた紙片を拾い上げ、開いた。
字は書いておらず、miffyのウサギの瞳から涙が溢れている絵が書かれていた。
「ちづ・・・」
彼はすぐさま後ろを振り返り、千鶴の方向を見た。
彼女も絵と同様、泣き腫らしていた。大粒の涙をポロポロさせて泣いている。
声も出さずに小さな指先で拭っていた。その姿を隠そうともせず、千鶴は麻琴と目が合うとすかさず。
「バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!キミなんて、今すぐ東京に行っちゃえ!」
と、叫んで立ち上がり駆け足でその場を立ち去ってしまった。
「ちづ!・・・なぜ?今、俺が東京に行くんだ?」
麻琴の想いは全部が千鶴に筒抜けだった。やはり彼女は勘の良い女の子だった。
彼が梨沙と性交渉を持ちたい気持ちがバレバレだったに違いない。
これから東京に・・・甘い響きだった。行きたかった。梨沙をこの腕で、思い切り抱きしめたかった。
麻琴は高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくりと立ち上がった。それから、一足超で千鶴を追いかけた。
しかし、今度は彼女に追い付く事ができず、見失ってしまった。
「まさか、これで千鶴とはお別れなんじゃ・・・」
梨沙に会えるかも知れないという人間の生殖に対する欲望の過多というプラスイメージと千鶴を失ったかも知れないという不安によるマイナスイメージが交錯し、またしても麻琴の胃酸が食道に上がり、吐き気をもよおした。
逆行線と共にやってくる湿気を含んだ穏やかな風が麻琴を不快にさせた。毎年、必ずやってくる風。そして、季節。
孤独が尚更、彼をイラつかせた。一向に受験勉強は捗る気配はない。
梨沙は専門であるリハビリテーションの学業にアルバイトにと忙しい日々を送っているようで、スマートフォンに着信があるどころかこちらがかけた携帯電話にも出てくれず、出ても事務的な事を5分から10分程度、近況を報告し合うぐらいだった。
梨沙を抱きしめるには、東京は遥か遠く、彼女が高校の時でならいくらでもお互いをどれだけ愛しているか確かめる時間などいくらでもあったが、今は麻琴の彼女への愛だけが一方的過ぎて、彼女からの愛は彼へとほとんど伝わってこなかった。
「梨沙ぁ~。会いたい・・・会わないとどうにかなっちゃいそうだわ。俺・・・」
予備校の自習室で次の授業が始まる二時間を待つのさえツラい孤独。
受験生にとっては天下分け目のGWの初日、勉強しなくてはならないことは、麻琴も百も承知。だが、この寂寥感は拭えない。
彼は机にうっぷして、目を閉じて、寝れなくても、少し休む心つもりでいた。
ーーコツッ・・・
「痛っ!」
麻琴の後ろから、何か小さいものが飛んできて頭にぶつかった。その飛翔体は彼の頭を飛び越え、彼の座っている机の上で止まった。
『ーーーまさか。このパターンは?』
麻琴は急ぎ仰け反るようにして後ろを向くと机の二列後段に真栄城千鶴が左肘を立てた手を左顎に乗せて微笑んでいる。
ついこの間まで、麻琴のすぐ近くにあった笑顔だ。
そして、右手人差し指で『下』を合図している。
「下?」
そう言うと彼女は笑顔で大きくうなずいた。
「下・・・下・・・と。」
麻琴は下を見て、先ほど自分に当たったと思われる小さな紙切れを拾い出した。それを千鶴に見せると彼女は嬉しそうに笑った。彼は紙切れを広げる。
「彼女と上手く行ってる?」
千鶴の字で可愛らしく、いつものmiffyのウサギのキャラクターもしっかり書いてあった。
彼は不躾に悔しそうに唇を噛んだ。
そうして、彼女が書いた紙の後ろに何かしら書いて、千鶴が座っている方向に顔も見ず投げ捨てた。
そこに、
『ちづには関係ない』
と、書いた。千鶴に引かれかけているのに、梨沙の電話を待っている自分が嫌で、東京の事が気になるのに、千鶴にこうして、気を使わせている。そんなどっちつかずの自分も嫌だった。
梨沙に出会う前、千鶴に出会う前なら高校内で適当に新しい尻の軽い女で、自らの若い勢いを済ませてしまったかも知れない。
しかし、それには梨沙と千鶴の二人の存在は麻琴の人生にとって、不可欠な要素であった。つまり、梨沙にない魅力を千鶴は持ち、千鶴にない価値を梨沙に見出だしていた。
梨沙を思うときには、必ず男女の交渉事が絡んでいた。
千鶴には梨沙ほど、セックスを感じていない。学力面での尊敬と畏怖である。
そういう意味合いでは、麻琴は千鶴を傷つけてしまっている。
千鶴は勉学のバートナーと成り得るが、セックスパートナーとは考えにくかった。如何せん、根が真っ直ぐで汚れ過ぎた自分は傍にいることさえ、憚られた。
彼女を傷着けてはいけない。無垢のままで、汚いモノは見ずに人生を歩んで欲しいのだ。麻琴はそう考えていた。
ーーコツッ・・・
また、頭に何か当たった。麻琴はガバッと起き上がって再び投げられた紙片を拾い上げ、開いた。
字は書いておらず、miffyのウサギの瞳から涙が溢れている絵が書かれていた。
「ちづ・・・」
彼はすぐさま後ろを振り返り、千鶴の方向を見た。
彼女も絵と同様、泣き腫らしていた。大粒の涙をポロポロさせて泣いている。
声も出さずに小さな指先で拭っていた。その姿を隠そうともせず、千鶴は麻琴と目が合うとすかさず。
「バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!キミなんて、今すぐ東京に行っちゃえ!」
と、叫んで立ち上がり駆け足でその場を立ち去ってしまった。
「ちづ!・・・なぜ?今、俺が東京に行くんだ?」
麻琴の想いは全部が千鶴に筒抜けだった。やはり彼女は勘の良い女の子だった。
彼が梨沙と性交渉を持ちたい気持ちがバレバレだったに違いない。
これから東京に・・・甘い響きだった。行きたかった。梨沙をこの腕で、思い切り抱きしめたかった。
麻琴は高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくりと立ち上がった。それから、一足超で千鶴を追いかけた。
しかし、今度は彼女に追い付く事ができず、見失ってしまった。
「まさか、これで千鶴とはお別れなんじゃ・・・」
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