先輩を追いかけて東京に行こうとしたら京都大学を目指していた件

鷹橋渚

文字の大きさ
10 / 25

一方的敗北

しおりを挟む
雨の冷たさで、麻琴はゆっくりと目を覚ました。頭が酷く痛くガンガンする。

今、自分は東京にいるのか沖縄にいるのか、現実感がなかった。梨沙の裏切り・・・

高校時代、麻琴が彼女とした二人だけの行為を余所者の櫂と及ぼうとしていた。故郷に自分という彼氏がいながら。

しかし、麻琴の性分なのか分からないけれないし、産まれて来た後の躾なのかも知れないが、彼は過去というものを素直に受け入れる術を身に付けていた。

『起きてしまった事は仕方がない。人間なるようにしかならない。』

と脳内に記憶として瞬時に記録してしまう性分たちなのだ。

それが悪い方向に行けば粘りがない。よい方向に行けば潔いと言う事なのだろう。

こういう己自身の性格がとても嫌いだった。熱しやすく冷めやすい性質なのかも知れないとも思う。

「今回は割りと粘った方だよな・・・衝動的だったけど、沖縄から勇気を出して一人で東京に来れたし、男がいると分かってからも梨沙の部屋にも行くことができた。本気で怒って相手の男を殴ろうともした。逆にられてしまったけど。」

櫂と呼ばれていた男に殴られ地面に叩きつけられた・・・そこまでは覚えている。それ以降の記憶がない。

軽い脳震盪を起こしているだけだと思う。ここは何処なのだろう?ただっ広い地平線が広がっているだけのようにも思う。

彼は暖かな強い雨に打たれ、大の字になって寝ている。

フワフワと綿毛のように身体が軽々と浮いているかのような感じがする。酷い離人感。自分が自分でないような気分。

眼を閉じたい。眼を閉じて大きく息を吸いたい。そして、全てを忘れたい。梨沙の事、受験の事、自分の人生も。

麻琴は息を吸い込もうと肺を大きく開いた。今は自由な自分を感じていたい。何から自由になるのかは分からなかったが。

『大きく息ができない・・・』

彼は最初から薄く浅い息をしているだけだったのだ。

彼は身動きできない焦りで急に全身の毛穴が開き、穴という穴から汗が吹き出てくる。

特に額からの冷や汗が酷い。

『あっ・・・もしかして・・・俺・・・死ぬ?・・・』

自分でも信じられなかったが、麻琴は頑張った。愛した梨沙に会うこともできた。櫂によってこんな状態にされたのは誤算だったが、とにかく自分のやれる事はやった。

すごく満足している。それが例えば死に至るとしても。

その時、ふと、思い出した顔があった。

千鶴の泣き腫らした姿であった。あんなに美しい涙を麻琴は見たことがなかった。

それは、他者に対する絶対的愛情を寄せた涙だった。千鶴自身は報われないかも知れないが、ただ、麻琴のために麻琴のためを思って流した泪。

彼はそれに応える事ができなかった。

今更、愚か者だと思う。梨沙を選ばず、もしかすれば、千鶴を選んだのならもっと違う人生を歩めたのではないであろうか?

千鶴に会いたい・・・

彼は息苦しさで何度も咳をした。すると、夥しい量の吐血をした。常人なら考えられないような排血量だ。櫂に身体を痛めつけられたらしい。

もう一度、千鶴に会いたい・・・

眼を開けているのに段々と視界がぼやけて来た。息ができない。身体も冷たくなっていく・・・

視界がブラックアウトしていく・・・

これが絶命か!これが!死か!

麻琴は身体を動かそうとしたが、それも叶わずついに全身は弛緩した。

梨沙にも櫂にも千鶴にも受験にも一方的に負けたんだと意識ある最後に麻琴は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

処理中です...