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一方的敗北
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雨の冷たさで、麻琴はゆっくりと目を覚ました。頭が酷く痛くガンガンする。
今、自分は東京にいるのか沖縄にいるのか、現実感がなかった。梨沙の裏切り・・・
高校時代、麻琴が彼女とした二人だけの行為を余所者の櫂と及ぼうとしていた。故郷に自分という彼氏がいながら。
しかし、麻琴の性分なのか分からないけれないし、産まれて来た後の躾なのかも知れないが、彼は過去というものを素直に受け入れる術を身に付けていた。
『起きてしまった事は仕方がない。人間なるようにしかならない。』
と脳内に記憶として瞬時に記録してしまう性分なのだ。
それが悪い方向に行けば粘りがない。よい方向に行けば潔いと言う事なのだろう。
こういう己自身の性格がとても嫌いだった。熱しやすく冷めやすい性質なのかも知れないとも思う。
「今回は割りと粘った方だよな・・・衝動的だったけど、沖縄から勇気を出して一人で東京に来れたし、男がいると分かってからも梨沙の部屋にも行くことができた。本気で怒って相手の男を殴ろうともした。逆に殺られてしまったけど。」
櫂と呼ばれていた男に殴られ地面に叩きつけられた・・・そこまでは覚えている。それ以降の記憶がない。
軽い脳震盪を起こしているだけだと思う。ここは何処なのだろう?ただっ広い地平線が広がっているだけのようにも思う。
彼は暖かな強い雨に打たれ、大の字になって寝ている。
フワフワと綿毛のように身体が軽々と浮いているかのような感じがする。酷い離人感。自分が自分でないような気分。
眼を閉じたい。眼を閉じて大きく息を吸いたい。そして、全てを忘れたい。梨沙の事、受験の事、自分の人生も。
麻琴は息を吸い込もうと肺を大きく開いた。今は自由な自分を感じていたい。何から自由になるのかは分からなかったが。
『大きく息ができない・・・』
彼は最初から薄く浅い息をしているだけだったのだ。
彼は身動きできない焦りで急に全身の毛穴が開き、穴という穴から汗が吹き出てくる。
特に額からの冷や汗が酷い。
『あっ・・・もしかして・・・俺・・・死ぬ?・・・』
自分でも信じられなかったが、麻琴は頑張った。愛した梨沙に会うこともできた。櫂によってこんな状態にされたのは誤算だったが、とにかく自分のやれる事はやった。
すごく満足している。それが例えば死に至るとしても。
その時、ふと、思い出した顔があった。
千鶴の泣き腫らした姿であった。あんなに美しい涙を麻琴は見たことがなかった。
それは、他者に対する絶対的愛情を寄せた涙だった。千鶴自身は報われないかも知れないが、ただ、麻琴のために麻琴のためを思って流した泪。
彼はそれに応える事ができなかった。
今更、愚か者だと思う。梨沙を選ばず、もしかすれば、千鶴を選んだのならもっと違う人生を歩めたのではないであろうか?
千鶴に会いたい・・・
彼は息苦しさで何度も咳をした。すると、夥しい量の吐血をした。常人なら考えられないような排血量だ。櫂に身体を痛めつけられたらしい。
もう一度、千鶴に会いたい・・・
眼を開けているのに段々と視界がぼやけて来た。息ができない。身体も冷たくなっていく・・・
視界がブラックアウトしていく・・・
これが絶命か!これが!死か!
麻琴は身体を動かそうとしたが、それも叶わずついに全身は弛緩した。
梨沙にも櫂にも千鶴にも受験にも一方的に負けたんだと意識ある最後に麻琴は思った。
今、自分は東京にいるのか沖縄にいるのか、現実感がなかった。梨沙の裏切り・・・
高校時代、麻琴が彼女とした二人だけの行為を余所者の櫂と及ぼうとしていた。故郷に自分という彼氏がいながら。
しかし、麻琴の性分なのか分からないけれないし、産まれて来た後の躾なのかも知れないが、彼は過去というものを素直に受け入れる術を身に付けていた。
『起きてしまった事は仕方がない。人間なるようにしかならない。』
と脳内に記憶として瞬時に記録してしまう性分なのだ。
それが悪い方向に行けば粘りがない。よい方向に行けば潔いと言う事なのだろう。
こういう己自身の性格がとても嫌いだった。熱しやすく冷めやすい性質なのかも知れないとも思う。
「今回は割りと粘った方だよな・・・衝動的だったけど、沖縄から勇気を出して一人で東京に来れたし、男がいると分かってからも梨沙の部屋にも行くことができた。本気で怒って相手の男を殴ろうともした。逆に殺られてしまったけど。」
櫂と呼ばれていた男に殴られ地面に叩きつけられた・・・そこまでは覚えている。それ以降の記憶がない。
軽い脳震盪を起こしているだけだと思う。ここは何処なのだろう?ただっ広い地平線が広がっているだけのようにも思う。
彼は暖かな強い雨に打たれ、大の字になって寝ている。
フワフワと綿毛のように身体が軽々と浮いているかのような感じがする。酷い離人感。自分が自分でないような気分。
眼を閉じたい。眼を閉じて大きく息を吸いたい。そして、全てを忘れたい。梨沙の事、受験の事、自分の人生も。
麻琴は息を吸い込もうと肺を大きく開いた。今は自由な自分を感じていたい。何から自由になるのかは分からなかったが。
『大きく息ができない・・・』
彼は最初から薄く浅い息をしているだけだったのだ。
彼は身動きできない焦りで急に全身の毛穴が開き、穴という穴から汗が吹き出てくる。
特に額からの冷や汗が酷い。
『あっ・・・もしかして・・・俺・・・死ぬ?・・・』
自分でも信じられなかったが、麻琴は頑張った。愛した梨沙に会うこともできた。櫂によってこんな状態にされたのは誤算だったが、とにかく自分のやれる事はやった。
すごく満足している。それが例えば死に至るとしても。
その時、ふと、思い出した顔があった。
千鶴の泣き腫らした姿であった。あんなに美しい涙を麻琴は見たことがなかった。
それは、他者に対する絶対的愛情を寄せた涙だった。千鶴自身は報われないかも知れないが、ただ、麻琴のために麻琴のためを思って流した泪。
彼はそれに応える事ができなかった。
今更、愚か者だと思う。梨沙を選ばず、もしかすれば、千鶴を選んだのならもっと違う人生を歩めたのではないであろうか?
千鶴に会いたい・・・
彼は息苦しさで何度も咳をした。すると、夥しい量の吐血をした。常人なら考えられないような排血量だ。櫂に身体を痛めつけられたらしい。
もう一度、千鶴に会いたい・・・
眼を開けているのに段々と視界がぼやけて来た。息ができない。身体も冷たくなっていく・・・
視界がブラックアウトしていく・・・
これが絶命か!これが!死か!
麻琴は身体を動かそうとしたが、それも叶わずついに全身は弛緩した。
梨沙にも櫂にも千鶴にも受験にも一方的に負けたんだと意識ある最後に麻琴は思った。
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