追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~

まいめろ

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2話 隣国のラグナ・イシューマ王太子 その1

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 ほとんど無一文に近い状態で宮殿から放り出されてしまった。

 実際には最低限の給料と最低限の食糧を持っての追放だけれど、この場所が荒野だったりしたら、私はとっくに人生を投げ出していたかもしれない。それほどの衝撃が私の中を駆け巡っていた。


「新しい就職先って……どうしよう?」


 私は確かに孤児院で錬金術を学んではいた。私には才能があると言われていたから……でも、今現在、就職先だった宮廷からはほとんど無一文で放り出されてしまった。国王陛下や議会に働きかけようにも、私程度の身分の持ち主では会うことすら出来ない。

 何より、アラン王子殿下がそれを許さないだろう……。


 私を育ててくれた孤児院は、私が出て半年ほどで廃業になったと聞いている。つまり……元の場所に戻ることは出来ないわけで。この1年半の宮廷錬金術師としてのスキルは一体、何だったんだろうか?

 私は新しい就職先を見つけられないという不安よりも、人間不信の方が強くなっていた。いっそのこと、山籠もりでもして錬金術を磨きに磨いた方が、今の私の精神状態には良いのかもしれない。


「あっはははは」


「待てよ、お~~い!」


 周囲の人々の声が幸せに映る……今までの1年半の宮殿生活が幸せか? と言われれば難しいところではあるけれど。アラン王子殿下やマリーナ嬢を始めとして、身分差で貶められたことは多いし。それでも、自分の能力を活かせる場所があるのは幸せだった。


「マリーナ様は私以上の錬金術師……? つまり、私は不要……」


 私はアラン王子殿下とマリーナ嬢の大笑いが、頭の中から消えなかった。フラフラとした足取りで、裏通りの宿屋へと入って行く。寝床を確保する必要があるからだ。


「は~い、2泊3日でよろしいですね?」

「は、はい。それでお願いいたします……」

「毎度、ありがとうございま~す。朝食、夕食付で1万ゴールドになりま~す!」

「1万ゴールド……」


 高い……早くも所持金の半分が消えてしまった。これでは、本当の無一文になる日も近い……出来ればこの2泊3日の間に新しい仕事先を見つけなくては。

 ここは王都バンハールだ、絶対に沢山の求人が出ているはず。場合によっては冒険者ギルドに寄るのも良いかもしれない。あの場所は通常の販売店の従業員募集なんかも掲示してあると聞いたことがあるし。

 錬金術師に拘っている暇はない……アラン王子殿下の言動を見る限りでは、私の才能は所詮、凡人だったのだろうし設備がなければ、錬金術は行えないのだから。まずは食い繋いでいく為の仕事が優先だ。


「あっ、もうお帰りですか? ありがとうございました、またどうぞ~~!」


 先ほどまで、私の接客をしていた店員さんが愛想よく挨拶をしている。私はなんとなく、そちらの方向に目を向けていた。あれ……?


「ああ、ありがとう。この宿屋は食事も上手いし、部屋も広かった。また来させてもらうよ」

「またまた、お上手なんですから~~~!」


 見覚えのある身振り手振り……旅人の服を身に纏い帽子を被っている為、周囲の人は気付いていないみたいだけど、あの方はまさか……。私は思わず、その旅人の前に姿を見せていた。


「ん……君は……」

「覚えて……いらっしゃいますか?」

「ウィンリー……か?」

「は、はい……そうです。お久しぶりですね……」

「ああ、確かに! 本当に久しぶりだ!」


 私だと気が付いてくれた……それだけでも嬉しかったけれど。彼が明らかにテンションを上げてくれたのは、もっと嬉しかった。隣国のラグナ・イシューマ王太子殿下との再会を果たせた。
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