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36話 危険因子 2⃣

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「お久しぶりでございますね、ユルゲン王子殿下。追放されて以来ですので……それほど前というわけではありませんが、ご沙汰しております」

 私は機械のように淡々とした口調で、ユルゲン王子殿下に挨拶をした。彼は開いた口が塞がらない状態になっている。


「ははは、そうだな……元気そうで何よりだ」

「はい、ありがとうございます」


 ユルゲン王子殿下はなんとか言葉を取り繕っているけれど、顔中から滲み出ている汗は隠しようがない。彼が何を一番に焦っているのかは、誰もが想定済みだ。少なくともシャラハザードの方々は全員分かっている。


「お前がそちら側に居る、ということは……」

「はい、ユルゲン王子殿下。皆さま、経緯についてはご存じです」

「レヴィン殿、以前の訪問は私を試していたのか? あの時には既に、真実は分かっていたのだろう?」


 ユルゲン王子殿下はレヴィン様に視線を合わせている。問い詰めるような口調だけど、レヴィン様は平然としている。


「試した、という言葉は良い言葉かもしれませんね。影の聖女への真っ当な保障をした上での追放、ということであれば、私も怒りを覚えることはなかったのですが。あなた様の行ったことはあまりにも身勝手だ。唯一の良心は、エステルを処刑しなかったところでしょうか」


 タダ働きに近い労働環境……それは私が孤児出身だったこともあるし、サンマル宮殿で働けるのだから、レヴィン様が責められる部分ではないのかもしれない。でも、メシア様が能力開花をさせた後の処遇が酷いことを、レヴィン様は怒っていた。


「エステルを処刑……? はは、私がそんなことをするわけが……」

「それをもししていれば……リンバールとシャラハザードは敵対国になっていたかもしれませんね。本当に良かったと思いますよ」

「ぬう……!」


 最早、何も言い返すことができない様子のユルゲン王子殿下。レヴィン様はそれを敏感に感じ取っているようだった。彼の隣に座っているフレデリク国王陛下や大臣も何も言えない状況だ。この会談を聞いた人が居れば、リンバール王国のトップは誰なのか、疑問に思うレベルかもしれない。


 防衛隊長のリキッド様が、一番意見を言っていたのは皮肉な話だ。


「こちら側の要求を言っても構わないか?」


 状況を判断したアルゴン国王陛下は、ここぞとばかりにカードを切るように話し出した。


「な、なんですかな……? アルゴン国王陛……影の聖女のことを国民に公表しろ、とでも?」


「影の聖女のことを公表しろなどと言う気はない。公表するかどうかは、そちら側の問題だからな。だが、今まで影の聖女を不当に扱って来たのも事実。これは国際的に許される問題でもないだろう。彼女に賠償金も含めてそれなりの額の退職金を支払ってくれ。エステルの身柄はこちらで引き受けるから心配は無用だ」


「なに、退職金だと……!? 公式には存在し得ない人間に支払う金など、あるものか!」


「よせ、リキッド」

「陛下!」

「よいのだ……わかった、アルゴン国王陛下。貴殿の言う通り、エステル・ラシードには我が国から報酬として、退職金の支払いを約束しよう」


「そうか、それはありがたいことだ。礼を言う」


 まさか公式の会談上で私の退職金支払いが決定するなんて……見たところ、ユルゲン王子殿下も否定している様子はない。非常に喜ばしくありがたいことだけれど、結界で身動きが取れないリキッド・スネイル様の表情だけは気になってしまった。完全に私を敵視しているように見えたから……。
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