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【本編】
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しおりを挟む相変わらず池田の部屋は寒い。
度々の抗議は一切受け入れられることなく、設定温度は十八度のまま。
ここまで地球に優しくない部屋は、きっと学習塾の教室とこの部屋くらいのものだろう。
いい加減、辛抱堪らんと上着を着ようにも、まさかこんな寒い場所に連れてこられるとは思ってもいなかったから、タンクトップとティシャツくらいしか持ってきていない。
兄貴に電話でもして持って来てもらおうか?
ちょっとそう考えもしたけど、虚しくなるのでその案はすぐに脳内で踏み潰した。
兄貴がわざわざ俺の使いっぱになってくれるとは到底思えない。
家に電話して「寒いからちょっと長袖の服持ってきて」なんて言ったって、意味が通じず「アホか」と切られるのがオチだ。
だからじっと耐えるしかない。
でもそろそろ耐えたくない。
何で真夏に寒さに震えないといけないんだろう。
「玖朗、俺部屋戻りたい」
「却下。離れたら寒いだろ」
意味が分からない。
ぽつりと呟いた主張に、何とも言えない気分になる。
池田だって寒いんじゃないか。
なのに何で、極寒のリビングで二人ぶるぶる震えながら寄り添っていないといけないんだろうか。
雪山で遭難しているわけでもないのに。
相変わらず池田は俺を小脇に抱いて天然湯たんぽで暖を取り、テレビが正面に来る位置に座っている。
テレビの中では、胡散臭い外国人二人が洗剤の脅威の洗浄パワーを大袈裟な身振り手振りで紹介している。
胡散臭さ炸裂なのに、何でかちょっと欲しいと思わせる力があるよな、こういうの。
真冬モードのリビングに、付けっぱなしのテレビ、ソファに座る池田と俺。
既に馴染みの光景となった現状に、昨日から少しだけ変化が混じった。
テレビは付いているけど、池田の目は膝の上。
行儀悪くテーブルに投げ出した足の上で器用に片手で押さえ、じっと眺め続けるのは一昨日の夜に俺が差し出した本だ。
一昨日の夜、俺の差し入れに驚くほど喜んだ池田は、翌日から本当にその本を広げて読み始めた。
気に入るテレビ番組がなければ、惰性でぱちぱちチャンネルを切り替え続けるのではなく、本に手を伸ばすようになった。
そんな様子を近くで見ているのは何となく面映く、それでもちらちら池田の顔を窺ってしまう。
とっておきのお勧めを借りてきた手前、反応が気になって仕方がなかった。
が、だ。
俺で暖を取りテレビをバックミュージックに読書に励む池田は良いかしれないが、俺は退屈だ。
もともとあまりテレビを見る方じゃないし、何より寒い。
それに何とか耐えられたのも、胡散臭い通販番組が終わるまでのことだった。
「どうした?」
急にごそごそ動き始めた俺に、池田の目が手元から離れた。
不審な、というよりは単純に不思議そうな目を向けてくる池田を無視、腹に絡んでいた腕を退け、そのまま背中に体重をかける。
「涼二?」
「寒い」
そのままぐいぐい身じろぎすれば、追いやられるようにして池田の背中とソファの背凭れの間に隙間が出来た。
そこにぎゅっと身体を押し込み、肘置きに頭を乗せる。
そうすると、背中は池田の体温を吸ったソファの背凭れ、胸は池田の背中に挟まれ、抱えられていたときより大分あったかくなった。
これで足をぎゅっと畳めば、もっとマシだ。
やっと満足して息を吐くと、池田が目を白黒させて見ているのが分かったけど、気にせず瞼を落とした。
何か訊ねてこられたって返事はしません体勢は変えません抗議は受け付けません、の意思表示だ。
池田が俺を湯たんぽにするなら、俺だって池田を湯たんぽにしたってきっと罰は当たらない。
俺が間に挟まっていることで池田の背中はあったかいだろうし、池田とソファに挟まれていることで俺の上半身はあったかいんだから。
これでどっちも幸せだ。
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