凶悪ハニィ

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【本編】

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 傍から見れば今の池田と俺は、叱られている親と子供みたいな構図だろうが……如何せんその内容がくだらなすぎる。
 真面目に取り合うと馬鹿を見るのは俺の方だろう。
 ここは冷静さを忘れず、這い蹲るような気分で下手に出て……
「朝起こしに来たときに勢い余って顔射とか、えらいことになっちゃったりして。まあオレは別に良いけど」
 切れた。
「パンツだろうがシーツだろうが幾らでも洗ったるわい! オナニーの手伝いさせられるくらいなら顔射のがよっぽどマシだ! ぜーったい、お断りだね!」
 ぶちんと頭の中で何かが切れる音がすると同時に、立ち上がって高らかに宣言。
 淡々と責めてくる池田を射殺す勢いで睨み、一目散に客間に駆け込む。
 切れても保身を忘れない俺は、多分三国一の小心者だろう。
 その場でじっといていれば更なる反撃があっただろう、だからこそさっさと逃げた。
 小心者で何が悪い。
 ばたんと盛大な音を立てて扉を閉じ、そのドアに背中を預ける。
 心臓が壊れたみたいにばくばくしていた。
 池田に、それも魔王の池田に逆らってしまった……いや、逆らってやった。
 ざまあみろ!
 いつまでもいつまでも何でもかんでも俺が思い通りになると思うなよ。
 ……そう思う気持ちは確かにあったが、それ以上にどっと疲れて膝から力が抜けた。
 扉伝いにずるずる腰を落とし、そのままぱたんと床に転がる。
 エアコンをつけていない客間はじっとり蒸し暑く、窓を開けていたってじわりと汗が浮いてくる。
 それでも逆にそれが心地好くて目を閉じた。

「……」
 ふと気がつくと、既に日付が変わろうかという時刻になっていた。
 知らない間にまた眠ってしまっていたらしい。
 のろのろと起き上がると、変な体勢で寝た所為か身体の節々が痛かった。
 頭の奥にぼんやりとした痛みがある。
 覚醒しきらない意識を浮上させるように頭を振ってみたけど、鈍い痛みに眩暈がしただけだった。
 そうだ、池田。
 あの下品なセクハラ魔王はどうなったんだろうか。
 怒鳴り散らして部屋に閉じ篭ってしまったから、風呂の手伝いもしてやっていない。
 くらだないことで言い合いにはなったけど、流石にほったらかしにしておくわけにもいかないと、背中にしていたドアをそっと開けて外の様子を窺った。
 覗いたリビングは既に真っ暗だった。
 池田は既に部屋に引っ込んだらしい。
 どうしようか。
 少しの間考えたけど、結局部屋まで訪ねて行く気にもなれず、着替えを持ってそのまま風呂場に向かった。
 極寒で暮らす池田はそうでもないかもしれないが、常温の客間で寝ていた俺の身体はじっとり汗ばんでいて、そのままだと気持ちが悪い。
 浴槽に湯を張るほどの気分でもなくシャワーを頭から被ると、ほっと溜息が落ちた。
 頭が痛い。
 俯く視界の中で、皮膚の上を湯が流れていく。
 ……そういえば、俺も最近していない。
 ふとそんな事を考えると、勝手に手が股間に伸びた。
 しょんぼり項垂れたそれに指を絡め、壁のタイルに額を預ける。
 前のめりになった背中に、シャワーの湯が当たるのが心地好い。
 そういえば、池田は怪我をするまでは三日に一度はやっていたと言っていたな。
 まあ、確かにモテそうな奴ではある。
 髪の色も目の色も奇抜だが、それを差し引いても池田は結構綺麗な顔をしているし。
 いや、もしかしたら逆にあの突飛な色が好きだという奇特な奴もいるのかもしれない。
 背だって高いし力も強い。
 性格には少々……いや、大分難ありだけど、時折見せるごろにゃんとした微笑はきっとそれを差し引いて余りあるだろう。
 それ以前に池田には、黙って立っていれば、それだけで人が寄ってきそうな不思議な雰囲気がある。
 気配に華があるとでもいうんだろうか?
 けど、平然とシモの処理をしてくれと頼んでくるあの下衆い性格で、一体どんな風に女を抱くんだろう。
 それとも、あの下衆さすら、女を溶かす道具になるんだろうか。
 どうなんだろう……
「……ッ、」
 びくん、と腹が跳ねたと同時に、掌に滑る感触が飛び込んできた。
 火照った思考で掌を眺め、滴る湯に体液が流されていく様子を見るともなしに見ていると……急に現実感が戻ってきた。
「うわあ!」
 と同時に悲鳴、反射的に掌を握り込んでタイルに頭をぶつける。
 見開いた目に湯が被さってくる。
 視界がくらくらしたのは、湯の所為じゃない。
 何やってんだ俺。
 何をやってるんだ、俺は!
 ぶつけた額より、寝起きの関節より、頭の中ががんがんと痛んだ。
 寝惚けたまんまでシャワーなんか浴びるんじゃなかった。
 よりにもよって、池田がやってる場面を想像して抜くなんて。
 池田が切々と語った言葉の数々は、童貞の俺には刺激が強すぎたのかもしれない。
 いやけど、それにしたって……
「さいっあくだ……」
 自分のしでかした現実に、頭がくらくらとした。




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