せびりあ物語

熊取 建

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【変わり者】

三人の将校は、皆どこか個性的。

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昼下がりのウエスカ。帝国兵団の駐屯地で中庭をぶらぶらしている黒髪の女性がいた。そこへ、眼鏡をかけた浅黒い肌の男がやってきて、声をかけた。

「ウルスラさん」

さわやかな声をかける眼鏡の男に、ウルスラと呼ばれた彼女は数秒の間をおいて、ぼやっとした顔で振り向いた。

「どしたの?」

「昼の休憩だというのに何をしているんですか。早く食事を取らないと、業務の再開に間に合いませんよ」

「お昼なら後で、もう一回休憩する時に取るよ。休憩は一日二回、どっちで食事を取るかは決まってないでしょ?」

「それはそうですが、他の兵士も士官も殆ど今食べているんですよ。ウルスラさんだけ、腹が減って戦どころか事務仕事も出来なくなったらどうするつもりですか」

「平気。頭使うだけならお砂糖さえあれば良いから」

「そういう問題ではないでしょう」

呆れ顔で答える男性の名を、中庭の北の門から出てきた女性が呼んだ。

「どもっ、ホスローにウルスラ!」

緑色の短髪を揺らしながら駆けて来た彼女も、二人と同じ帝国の軍装に身を包んでいた。

「ん、ジマイマだ。ご飯食べてきたの?」

「もちろん!五分で済ませちゃった」

「よく噛んで食べていない証拠ですね。またお腹を壊しますよ」

「って、いつも突っ込んでるけどお腹壊さないよね」

ウルスラがそう言うと、ジマイマは誇らしげにぽんと自分の腹を叩いた。

「そりゃそうよ!あたしのお腹は樽より頑丈、そしてあたしの歯に噛み砕けないものはなし!」

「あまりの食べっぷりに、祖先はオーガか吸血鬼か。そんなことまで疑りたくなりますよ」

「女の子を魔物扱いするなんてひどーい!」

およそ大人の将校とは思えないような可愛らしい顔で憤慨するジマイマをまあまあと宥めて、ウルスラはホスローの側を向いた。

「そんなことより…あんたはご飯食べなくていいの?お話してるともれなく時間切れになる気がする」

「いや、私ももちろん食べますけどね。どちらかというと、ウルスラさんの健康を考えて、この時間に一緒に食べた方がいいのではと…」

「ホスロー頑張れ!ジマイマは応援してるよぉ!」

「やめて、そういうのは彼にはともかく私に似合わない」

その一言であっさり気持ちをへし折られたホスローは、くるりと後ろを向いて歩き出した。

「分かりましたよ。一人で食べますって」

「あたし、一緒に行こっか?もう一回でも二回でも、ご飯なら食べられるよ!」

「一人でゆっくり食事がしたいんですよ。君と一緒ではそれが両方叶いませんから」

すっかりすねた口調で、ホスローは北の門を押し開けてとぼとぼと去っていった。

「さすがウルスラ。この展開、これでもう十回目ぐらい?」

「覚えてる範囲だと十四回目だね。悪くはない男なんだけど、いまいちピンと来るとこがない」

「あんまりやるとホスローがかわいそうに見えるよぉ」

「そんな気もするけど、私こういう事にはウソつけないから」

相変わらずぼーっとした表情のウルスラの前に、ジマイマがひょいと回り込んだ。

「じゃあ、ウルスラってどんな人がタイプなの?」

「私とそっくりな人」

「あはは。理想高いなぁ」

「限りなく見つかる可能性が低いのは分かってるけどさ」

そんなウルスラの目つきは先ごろから殆ど変わっていないが、ジマイマから見ると今、少し哀しげに見えなくも無かった。

「でも、それを言うならあたしだって理想高かったなぁ。なんたって、皇帝陛下と結婚したいって言ってたんだもん」

「女なら、誰もが一度は抱く夢だけどね。けど、本で読むだけでも結婚する気失せるね、あれは」

「美味しいご飯が食べられるのはいいけど、陛下の機嫌が悪かったら殺されちゃうかもしれないしね」

「それだけじゃないよ。奥さんは何十人もいるから、その中でトップにならないとまず生き残れないわけだし。しかも、世継ぎを残すためなら自分の体を削んなきゃいけない」

「そんなのは小説の中だけで充分だよね…」

「ある意味軍隊以上に血なまぐさいんだよね、宮廷って。私はそういうのと関わりたくないから、中央にも行きたくない」

夢の無い会話が一通り続いたところで、ジマイマは雰囲気を変えようとまったく別の話題を切り出した。

「あたし達は、ウエスカでのんびりやってるのが一番だよね。そうだ!明日でいいからさ、ベルドゥーラにご飯食べに行かない?」

「メニューが少ないくせに、東方料理があるあそこね」

「そうそう!ホスローも連れてこうよ!あの人、結局いつも一人でご飯食べてるしさ」

「色々残念な男だよね。私も人の事言えないけど」

「そんなぁ。自覚してるウルスラは偉いよ」

「あ、私が残念な女だって認めたね今」

「ごめーん、つい口が滑ったぁ」

笑ってごまかすジマイマを、ウルスラはやはりぼーっとしたいつもの表情で、怒ることもすごむ事もなくやり過ごした。

「じゃ、私そろそろ仕事に戻るね」

「あたしも。う~、事務仕事って頭が痛くなるんだよね」

「お互い大変だよね。明日はよろしく」

「うん、じゃぁまたねー!」

ジマイマは、明るい緑の髪を振りかざして東の門へと去って行った。

その様子をほほえましそうに暫し見つめると、ウルスラもまた南の門へと去って行った。
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