3 / 4
【邂逅】
かくして出会った二つのトリオ。しかし、そう簡単に三二が六、とはいかないもので…
しおりを挟む「はい、お待たせ」
オルタンスが内側から部屋の扉を開けると、研究者たち三人はそれぞれ挨拶をして部屋に入った。
「向こうに女の子が二人、うずくまってるけど」
「ああ、さっきはごめんなさいね。少しうるさかったから、言って聞かせてあげたの」
言って聞かせる以上のことをしていたのは誰の目にも明らかなのだが、三人の中でそれを指摘する勇気のある者はもちろんいなかった。
「ほら、お客さんもいるんだから立って。まずは自己紹介しましょ」
オルタンスが部屋の隅にへたり込んでいる女性二人に優しく声をかけると、二人はよろよろと立ち上がり、小刻みに震えながらオルタンスの両隣に侍った。
「は、はじめまして。イヴェタって言います。一応、流れの魔術使いです。よろしく!」
「初めてお目にかかるな、私はミキという。生業は…こちらで言うところの傭兵か」
「三人合わせて、冒険家というか傭兵というか…まあ、その間ぐらいの事をやってるのよ」
女性陣が一通り自己紹介を終えると、研究者三人組からはステファンが代表してそれに答えた。
「えーと、僕はステファン。で、青いのがパトリシオ。通称パトね。黒いのはサイモン。そのまま呼んでね」
「ますます酷い紹介になってるなぁ、おい」
「我々三人とも、身分は古代文明の研究者だ。…いまや元研究者と言ったほうが良いかもしれないが」
パトリシオがそう名乗ると、イヴェタが怪訝そうに顔を突き出してきた。
「元?てことは何、あんたたちって今無職?」
「言ってしまえばそうなんだよね」
「儲からないとは言え、定職を放り投げたのか。およそまともな人間の考える事とは思えないな」
と、ミキがすかさずその毒舌を炸裂させる。
「うるせえな!これにはちゃんと訳があるんだよ…」
言い返そうとするサイモンだったが、もちろん次はイヴェタの皮肉を浴びる事になった。
「どうせ大した理由じゃないんだよねー。だって、マトモじゃない人たちの考える事だし」
「…ねえ、二人とも。さっきなんで注意されたか、もう忘れちゃった?」
オルタンスは、左右に侍る口の悪い仲間二人をちらちらと見て、優しい笑顔でたしなめた。
「え?そ、そんなぁ、忘れてないってば!」
「私も、そんなに馬鹿ではないつもりだが」
青髪の剣士の警告を聞くや、すぐさま二人はぴしっと姿勢を正して口をつぐんでしまった。
「本当にごめんなさいね、手のかかる子達で」
「構わないさ、これぐらいおしゃべりなほうが見ていて楽しいよ」
「俺はすっごく気分が悪いけどなぁ」
「細かな事でイライラすると健康に良くないよ?とりあえず、ここに来た理由については僕から話すね」
不満げな表情のサイモンを抑えて、ステファンは一通り、バエトまでやって来た事情を彼女達に説明した。
「…というわけでね。オルタンスさんは、もう聞いてると思うけど」
そうだったわね、とオルタンスは答えた。ミキとイヴェタもひとまずは要領を得たらしく、相槌程度にではあるが頷いていた。
「なるほどねー。でもあたしたちじゃ、学者さん向けの仕事がどこにあるかは正直わかんないよ」
「仕事で我々のような研究者と組んだ事は何度かあると聞いたんだが」
「確かにそうだが、お前達のような古代文明の専門家ではなく、魔法や地質に関する連中ばかりだったからな」
「その上基本的にはあなた達のような一応ちゃんとした身分の研究者ではなくて、自称、っていう前置きがつく人が殆どだったわ」
「なるほどね、そういう人たちとお付き合いした所で学者の事情が分かるわけは無いからねぇ」
ステファンは有望な答えが返ってこない事をある程度予想していたのか、一通り話を聞くと素直に頷いた。
「しょうがないなぁ、とりあえずこの街…ウエスカって言ったっけ。ここの研究施設やアカデミーを回ってみるか?」
サイモンが提案すると、ステファンもパトリシオも共に賛成の意を示した。
「それじゃ、そろそろ僕らは…」
と、一礼して部屋を去ろうとするステファンをサイモンがその袖を掴んで引き止めた。
「待てよ、まだ終わってない事があるだろ?…オルタンスさん、何かお礼とか、させてもらえないですか?」
真面目な顔をしてオルタンスに対するサイモンに、彼女はいつもどおり優しく答えた。
「いえいえ、前も言ったとおり別に構わないわ。大変な思いをしている人から取るわけには行かないから」
「ま、ホントならたっぷり頂きたいところなんだけど。オルが言うなら、見逃してあげても構わないよ」
「男に世話になるのは、あまり好かないのでな」
と、三人とも丁重に断る姿勢を見せたがサイモンは引き下がらない。
「かと言って、ただ働きで送ってもらうのはあまりにも虫が良すぎるし、俺達としても…」
「まあ、彼はこう見えて一番真面目だから。せっかくだから、僕達のおごりで食事でもしようか」
「それなら、私達がここで行きつけにしているお店にしてもらって良いかな?」
オルタンスの提案に、研究者三人は特に断る理由も無かったのでめいめい賛成の意を示した。
そうして一行がやって来たのは、ウエスカ市内の中央広場近くにあるラ・ベルドゥーラという宿だった。
この時世、高級官僚や貴族達に食事を振舞うような店は大都市ならどこにでもあったが、逆に流れの冒険家や旅人たちが食事にありつける場といえば、それこそ宿屋しかなかった。ラ・ベルドゥーラはそんな旅人達に理解のある、数少ない宿の一つなのだという。
「やっぱここ来ると落ち着くよねー」
椅子に深々と腰掛けてくつろぐイヴェタに、ミキも珍しく素直に賛同する。
「全くだ。それに、一品とは言え東方料理を出してくれる店などここぐらいしかないからな」
「東方料理?そんなものが食べられるのか、ここって」
目を丸くするサイモンに、オルタンスが答える。
「と言っても、向こうのやり方で作った調味料を和えて魚と野菜を焼き上げただけのものだから、大してびっくりするほどのものじゃないわよ」
「そうなんですか?でも、どんなものかは気になりますよ」
興味津々のサイモンだが、その口ぶりを聞いて早速突っ込みを入れる者がいた。もちろん、イヴェタである。
「ねえあんた、オルに対してだけなんで敬語使うわけ?」
「え?何でそんなこと聞くんだよ」
「まさかぁ…変な事考えちゃったりしてない?」
「失礼だな!何でそんな疑われ方しなきゃいけないんだよ」
「女は良く気づく生き物なんだ。お前のように分かりやすい男は、見ていて危なっかしい上に苦手だな」
こういう時のミキとイヴェタだけはどうやら相性が良いらしい。追い込まれつつあるサイモンはステファンとパトリシオを助けを求めるような目で見たが、彼らは済ました笑顔をしているだけだった。
「…お前ら、こういう場面だといつも薄情だよな」
「私が助言しても役に立たないだろうから、この場はお前に任せるぞ、サイモン」
「苦手を克服するためには実践、って言うでしょ」
あっさりと突き放されたサイモンは、本当に困った表情で研究者側と女性陣をちらちら見ていたが、その様子に結局はオルタンスがすぐに介入した。
「ねえ、ミキ、イヴェタ。こんなに可愛い男の子なんだから、もう少し優しく扱ってあげたらどう?…大丈夫、いざとなったら私なら何とかできるから」
最後の一言に恐ろしい何かが潜んでいる事には男性陣全てが気づいていたし、女性二人はそれが具体的になんなのか良く分かっていたから、何一つ反対意見が出ることは無かった。
「そうだよね…オルの言うとおりだよね。下心見え見えだけど悪気はなさそうだしー」
「露骨な男は嫌いだが、裏を返せば正直者だな。見方によっては、好感が持てないことも無いだろう」
二人は、皮肉たっぷりな言葉を添えてサイモンを解放した。何かな言いたそうな表情をしている彼だが、もちろん何も言い返すことは出来なかった。
「さすが、女性って色々な言葉を知ってるんだね。サイモンもまた一つ、勉強になったでしょ?」
言い返せないサイモンの代わりに、ステファンがせめてもの皮肉に聞こえない皮肉で応じた。
「あぁ、本当にな」
ぼそりと呟くサイモンの背を、パトリシオがご苦労様と言わんばかりに軽く叩いてやった。
「さて、それじゃあ料理を注文しましょうか。マスター、いるかしら?」
オルタンスが少し声を張り上げると、カウンターからやや頭の寂しくなった初老の男性が歩いてきた。
「おっ、オルタンスじゃないか。いやぁ、今日もいつもの通りの美人ぞろいだな。おぉ、今日はなかなかの美男子までいるじゃないか」
「いつもどおりの褒め言葉をありがと。今日は彼らがおごってくれるのよ」
「ほぉ、という事はあれか?ちょうど男女の数も揃っているし、集団交際という奴か?」
「そういう事にしか興味ないんだね、エロ親父」
「そこの三人も、あと二十年もすればこうなるのか」
「相変わらず手厳しいお嬢さんたちだな。ま、良い良い。まずは注文を頂こうか」
女二人の皮肉を軽く受け流して、マスターは石筆と板を取り出した。
「そうね。私はいつも通り、海老のガレットをお願いね。ミキとイヴェタもいつものでいいでしょ?」
「ああ」
「はーい」
「それじゃ、研究者さんたちは何にする?…といっても、初めてだから分からないかしら」
すまなさそうに苦笑するオルタンスの傍らで、マスターはメニューの書かれた板を取り出した。
「そうだな、これを見てくれ。お勧めはやはり、オルが頼んだ海老のガレットか。お好みならば、青菜や蛸を入れることもできるぞ」
「じゃあ、僕達もそれを頼もうか?」
「私はそれで構わないぞ」
「ああ、俺も!」
結局、三人まとめて海老のガレットを頼むことになった。
「それじゃ、早速作ってくるとするか」
注文をまとめてマスターが厨房に引っ込もうとしたとき、ステファンたちの向こう側から良く通る男の声が聞こえた。
「失礼、注文をよろしいですか?」
「はいよ、今行くからな」
マスターは、慌しく声のしたほうに去っていた。
ステファンは声の主がどんな者か少し気になって、ちらりとその側を見てみた。
向こうの机に座っていたのも三人組で、一人はマスターを呼んだ男性、もう二人は女性のようだ。
そして、いずれの三人も軍装に身を包んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる