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しかし。ニーナ以外にも、お嬢様におかしな真似を教える輩が大勢いた。
「なんでもかんでも『興味深いですわ』と言っていると馬鹿にされますから、間に『それってあなたの意見ですよね?』と言い負かさないといけないんですよね?」
「……お嬢様。意見を伝えるのはかまいません。会話にウェットに富んだジョークを加えるのも円滑な会話になるかと思います。ただ、相手を馬鹿にするような発言はいけません。『それってあなたの意見ですよね?』は会話を中断させてしまう悪手です」
「まあ……そうだったんですか?」
「……お嬢様、大変恐縮なのですが、この知識はどちらから?」
「夜会では知らない方々とお話しするとき、どういう会話をすればいいのかと男性からも伺ったほうがいいかしらと、執事のレイブンから伺ったのですが……」
またか。また変なこと教えた輩が出たか。私は優男のレイブンの顔を思い描きながら、何度もマリアンヌ様に「それはお嬢様がからかわれたのです。鵜呑みになさらないでください」と釘を刺してからレイブンを探しに行った。
レイブンは代々侯爵家に仕える執事の家系から来ている執事だ。とにかく顔がいいために、侯爵家でお茶会などを催すときによく使われるのだけれど。それのせいでよその夫人と関係を持った持たないで揉めたことが多数。そのせいで侯爵家でお茶会は開催されなくなった。
「レイブン。あなた……」
「おやレイテ。お誘いをするにはまだ日が高いかな?」
なにを言うとるんじゃ。この色ボケが。
そう思ったことを口に出さず、私はレイブンを睨み付けた。
「夜会での会話に迷ったお嬢様に、余計な入れ知恵をしたのはあなたですね? お嬢様がおかしなことを言ったら最後、どのような醜聞が来るかわかってるんですか?」
「おやおや。お嬢様はシャイな方だから、質問攻めにされても困るだろうから、適当に打ち切れる言葉を教えただけだけどねえ」
「そんなこと言ったら、『恥知らず』と呼ばれるでしょうが」
「だったら、レイテだったらどうやって話題を打ち切るんだい?」
……たしかに、ここで代替案もなく噛み付いてても、この手の輩を納得させることはできないか。私は息を吸って吐いてから、口にした。
「……お話の途中ですが、そろそろ父に呼ばれておりますので。ごきげんよう」
「ハハハハハハハ。大変に上品だね。君も。それで、酔っ払いにからまれた場合のマナーはどうする?」
今速攻で色ボケとの会話を円滑に打ち切るマナーが欲しいわ。
内心毒づいたものの、それを見せぬよう、私は彼を睨みながら口を開いた。
「申し訳ございません。お花を摘みに参りますので。もしくは」
「もしくは?」
「ここの酒気に当たって熱くなりましたから、夜風に当たりに参りましょうかと言いながら、そのままデビュタントの警備に引き渡す」
そう言い切って、レイブンを置き去りにした。
本当に、お嬢様をなんだと思っているのか。
それからもそれからも、マリアンヌ様は迷惑クリエイターが考えたとしか思えない妙なことばかり言い出すので、私はだんだん怖くなってきた。
……マリアンヌ様にその都度「それはいけませんよ」と言って注意していったけれど、もしこれらを全部訂正することなく、マリアンヌ様がマスターしてしまっていた場合どうなるのか?
前世では、一時期悪役令嬢なるキャラが流行っていた。
身分が高くて高慢なキャラが、そのキャラゆえに婚約破棄され、その相手に逆襲してとんでもないことをしでかすというジャンルが手を変え品を変え跋扈していた。
なんでそんな身分があってお金があって性格がきつい女がやりたい放題する作品が人気あったのかはいまいち理解ができなかったけれど。
……もし私が前世を思い出さなかったら、マリアンヌ様はそうなってしまっていた可能性がある。ものすごくある。
「……その場合って、大概悪役令嬢の実家が潰れるか、潰れる前に損切りとして追い出されるのよね」
普段穏やかなマリアンヌ様が実家が没落したり、実家に追い出されたりしたら……私の苦手だったお金があって性格のきつい悪役令嬢になってしまう可能性に気付いてしまい、ぞっとした。
どうして迷惑クリエイターが次から次へと派遣され、マリアンヌ様を悪役令嬢に仕立てようとしているのかはわからないけれど。マリアンヌ様は絶対に悪役令嬢にはさせない。
「お嬢様はすごく優しくて賢くて愛らしい方です。なんとしても……お守りを……!」
私はこれからも、マナー講師の名の下に、次々派遣されてくる迷惑クリエイターを切って捨てなければならない。
全ては敬愛すべきマリアンヌ様を悪役令嬢にしないために。
私の戦いは、まだはじまったばかりだ。
<続……?>
「なんでもかんでも『興味深いですわ』と言っていると馬鹿にされますから、間に『それってあなたの意見ですよね?』と言い負かさないといけないんですよね?」
「……お嬢様。意見を伝えるのはかまいません。会話にウェットに富んだジョークを加えるのも円滑な会話になるかと思います。ただ、相手を馬鹿にするような発言はいけません。『それってあなたの意見ですよね?』は会話を中断させてしまう悪手です」
「まあ……そうだったんですか?」
「……お嬢様、大変恐縮なのですが、この知識はどちらから?」
「夜会では知らない方々とお話しするとき、どういう会話をすればいいのかと男性からも伺ったほうがいいかしらと、執事のレイブンから伺ったのですが……」
またか。また変なこと教えた輩が出たか。私は優男のレイブンの顔を思い描きながら、何度もマリアンヌ様に「それはお嬢様がからかわれたのです。鵜呑みになさらないでください」と釘を刺してからレイブンを探しに行った。
レイブンは代々侯爵家に仕える執事の家系から来ている執事だ。とにかく顔がいいために、侯爵家でお茶会などを催すときによく使われるのだけれど。それのせいでよその夫人と関係を持った持たないで揉めたことが多数。そのせいで侯爵家でお茶会は開催されなくなった。
「レイブン。あなた……」
「おやレイテ。お誘いをするにはまだ日が高いかな?」
なにを言うとるんじゃ。この色ボケが。
そう思ったことを口に出さず、私はレイブンを睨み付けた。
「夜会での会話に迷ったお嬢様に、余計な入れ知恵をしたのはあなたですね? お嬢様がおかしなことを言ったら最後、どのような醜聞が来るかわかってるんですか?」
「おやおや。お嬢様はシャイな方だから、質問攻めにされても困るだろうから、適当に打ち切れる言葉を教えただけだけどねえ」
「そんなこと言ったら、『恥知らず』と呼ばれるでしょうが」
「だったら、レイテだったらどうやって話題を打ち切るんだい?」
……たしかに、ここで代替案もなく噛み付いてても、この手の輩を納得させることはできないか。私は息を吸って吐いてから、口にした。
「……お話の途中ですが、そろそろ父に呼ばれておりますので。ごきげんよう」
「ハハハハハハハ。大変に上品だね。君も。それで、酔っ払いにからまれた場合のマナーはどうする?」
今速攻で色ボケとの会話を円滑に打ち切るマナーが欲しいわ。
内心毒づいたものの、それを見せぬよう、私は彼を睨みながら口を開いた。
「申し訳ございません。お花を摘みに参りますので。もしくは」
「もしくは?」
「ここの酒気に当たって熱くなりましたから、夜風に当たりに参りましょうかと言いながら、そのままデビュタントの警備に引き渡す」
そう言い切って、レイブンを置き去りにした。
本当に、お嬢様をなんだと思っているのか。
それからもそれからも、マリアンヌ様は迷惑クリエイターが考えたとしか思えない妙なことばかり言い出すので、私はだんだん怖くなってきた。
……マリアンヌ様にその都度「それはいけませんよ」と言って注意していったけれど、もしこれらを全部訂正することなく、マリアンヌ様がマスターしてしまっていた場合どうなるのか?
前世では、一時期悪役令嬢なるキャラが流行っていた。
身分が高くて高慢なキャラが、そのキャラゆえに婚約破棄され、その相手に逆襲してとんでもないことをしでかすというジャンルが手を変え品を変え跋扈していた。
なんでそんな身分があってお金があって性格がきつい女がやりたい放題する作品が人気あったのかはいまいち理解ができなかったけれど。
……もし私が前世を思い出さなかったら、マリアンヌ様はそうなってしまっていた可能性がある。ものすごくある。
「……その場合って、大概悪役令嬢の実家が潰れるか、潰れる前に損切りとして追い出されるのよね」
普段穏やかなマリアンヌ様が実家が没落したり、実家に追い出されたりしたら……私の苦手だったお金があって性格のきつい悪役令嬢になってしまう可能性に気付いてしまい、ぞっとした。
どうして迷惑クリエイターが次から次へと派遣され、マリアンヌ様を悪役令嬢に仕立てようとしているのかはわからないけれど。マリアンヌ様は絶対に悪役令嬢にはさせない。
「お嬢様はすごく優しくて賢くて愛らしい方です。なんとしても……お守りを……!」
私はこれからも、マナー講師の名の下に、次々派遣されてくる迷惑クリエイターを切って捨てなければならない。
全ては敬愛すべきマリアンヌ様を悪役令嬢にしないために。
私の戦いは、まだはじまったばかりだ。
<続……?>
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