魔法少女の食道楽

石田空

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魔法少女の正体

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 闇オーラを吸収したあと、フェンリルはみるみる萎んでいき、とうとう元のサイズに戻ってしまった。チワワだ。

「アンッ!」

 そのままパッと逃げてしまったのに私は「あ……」と声を上げる。
 あの子、飼い主がいるといいんだけれど。小さいのに保健所に連れて行かれるのはいくらなんでも可哀想だ。

「あの子大丈夫だといいんですけどね」
「さて、どうだかね。動物がうろうろしてたら保健所が調査に入るだろ。保健所で引き取られた犬猫だってひと月は猶予が得られる。その間にいい飼い主が見つかることを祈るんだね」

 テンカさんはあくまでドライだ。
 それに私は「そうですね……」としか答えられなかった。その中で、キュルルとお腹が鳴ったのに私は「げぇ」と声を上げる。
 さっきあれだけ食べ酒まで飲んできたのに、もうお腹空いたのか。あれか。高校生の健康な胃袋になっているせいで、闇妖精退治にエネルギー思っている以上に使っちゃったか。
 私は思わず「ハハハ……」と乾いた声を上げたら、テンカさんが「やれやれ、若いねえ」と声を上げた。どうにもテンカさんは少なくとも女子高生の見た目に反して年を召しているらしい。

「うち来るかい? 店を置きっぱなしにしてるんだ。食材傷むと困るからね」
「ああ……そういえばリリパスも言ってましたねえ。店をしているって」

 そう言うと、リリパスはぴょこっとテンカさんの肩に乗る。

「はい、してますの。おいしいですの」
「……リリパス、この子グルメなのかなんなのか」
「いいじゃないかい。どうにも妖精の世界じゃ食事っていうのはほとんどないみたいだから、食べることが娯楽だっていうのが理解できないらしいし」

 そういえばそんなこと言ってたな。
 私がテンカさんに誘われて出かけると、そこには屋台があった。

「屋台……ですか」
「最近は流行り病だったり税金制度だったりで店畳むのが増えちまってねえ。跡継ぎもなかなかできないから、うちが跡継ぎが決まるまでは事業継いだりしてたら増えちまったんだよ。このそばめし屋もそのひとつさ」
「そんな話……どこかで……うん?」

 そういえば。前に石焼き芋屋さんと再開したとき、そっくりそのままの話を聞いたような。
 まさか。私は思わずテンカさんの肩に座っているリリパスの耳をふん捕まえて尋ねた。

「ちょっとリリパス……私聞いてないけど!」
「ミュミュウ!? なんですか!?」
「私みたいに年齢操作ができるっていうのは聞いてたけど」
「だって最近の人間の皆さん、見た目を出して魔法少女活動をするのを嫌がりますし」
「それはそうなんだけれど! そうじゃなくって……」
「なんだ、おっさんが魔法少女やっちゃまずいか」
「~~~~!! やっぱりですかぁ!?」

 テンカさんがあまりに堂々としているもんだから、こちらもこれ以上ツッコミの入れようがなかった。

****

「店辞めるのの一番の原因ってぇのは、体調不良でなあ。ラーメン屋だったら腰や膝をやられて店畳む。もちろん借金やら土地の再編工事に巻き込まれたやらもあるんだが、一番はやっぱりこれだな」
「はあ……そうなんですか」

 私に出してくれたのは、鉄板でソースの焦げる匂いを漂わせながら、そばと豚、キャベツ、もやしをざくざくに炒めながらコテで切ってている。その上にご飯を混ぜていくと、そばめしが出来上がった。
 そばめしはたしか神戸発祥のジャンクフードだと思っていたから、鉄板焼き屋さんで食べられるとは思っていなかった。

「青のりいるかい?」
「ええっと、歯に挟まりますのでやめときます」
「若い子はだいたいそう言うねえ。じゃあ紅ショウガは?」
「お願いします」
「はいよ」

 そう言いながら出来上がったそばめしを皿にすくって割り箸と一緒に差し出してくれた。
 ひと口食べてみると、豚とキャベツのコリコリ食感にもやしのざっくり食感。結構炒めたと思っているのにしなっとならずにそばもご飯も水っぽくなってなく、むしろソースと一緒に互いの旨味を補い合っている。
 おいしい。ものすっごくおいしい。

「おいしいれす」
「そいつはよかった」

 テンカさんはリリパスにも小皿にそばめしをあげると、リリパスはそれをふうふうしながら食べはじめた。可愛い。

「俺もそろそろ腰が痛くて店畳むかねえと思ってたところで、リリパスに魔法少女勧誘を受けたんだよ」
「もしかして、若返ったら腰痛をおさらばできますかって?」
「どちらかってえと、魔法で料理の補助ができねえかって相談だよ。鍋を持つのもフライパン振るうのも、なにもかも体力勝負だからなあ。若返っただけじゃ駄目だ。女の細腕だったら補助もなしにずっと同じこと繰り返すことはできねえ」
「まあ、たしかに……」

 水の入った鍋は普通に重い。業務用のでかい鍋に水をがんがん張ったら、女ひとりじゃ持てなくなるんだから、そりゃ魔法の補助も必要になるか。
 テンカさんはニカリと笑った。

「せっかくあちこちで俺と同じように無念の内に店閉めちまってる連中もいるんだ。もうちょっとだけ踏ん張りたいんだよ」

 テンカさんのそういうところはかっこいいなあと思った。私の場合、家の事情でおいしいご飯をほとんど食べられなかったうちに体を壊したからもうちょっとだけ美食を味わいたいって理由だったもんなあ。
 さっきジビエステーキを全部食べたというのに、もうそばめしまで食べて。ごちそうも屋台飯も皆等しくおいしいんだ。

「ごちそうさまです。本当においしかったです」
「そりゃよかった」
「あの……お店の引継募集とかって、私のブログにも書いて大丈夫ですか?」
「うん? なんだい、ブログでもやってんのかい?」
「ええっと。こんなブログしてます。許可くれた店しか乗せてないんですけど」

 私はリリパスに頼んで手持ちのスマホを取りだしてもらうと、【魔法少女の食道楽】のブログを見せてみた。本当にご飯おいしいしか言ってない、閲覧数もそこそこな感じのブログだ。インフルエンサー以外は皆こんなもんだろう。

「はあん……リリパスに頼まれて、闇妖精を抑え込むためになあ」
「はい。最近は闇妖精も少々狂暴ですし、なんとかならないかなと。ついでにテンカさんも魔法少女仲間ですし、お役に立てないかなと」
「なるほどなあ……ただ、顔の見えねえ奴って、全部は信用できんから」
「はい?」
「魔法少女活動のために食事の内容を出すくらいだったら、その閲覧数じゃ店にも迷惑かけてないだろうからいいが。問題は仕事募集となったら、いらん奴が引っかかることもあるからな。あまりいらん奴に来られても困る」
「ああ……それはそうですね」

 仕事募集の記事の出し方って案外デリケートだ。

「でもま、気を遣ってくれてありがとうな。こっちもボチボチやってみるよ」
「あ、はい」

 結局はテンカさんの店は全面的にブログにご飯を上げるだけということで話が付き、そばめしの記事をブログにアップしてから、家路につくのであった。
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