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余命ヒロインの妹
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お母さんはだんだん姉に依存するようになっていった。そして姉は病人とは思えないほどに、どんどんと着飾られるようになっていった。
私が着られないような綺麗なワンピース。履きつぶすほども履けないピカピカの靴。でも、姉は困った顔をしていた。そんな綺麗な服に対して、私の服は萎びた服ばかりが並んでいた。
最初は姉の服がお下がりで私の元に渡ってきていたものの、姉は食べても食べても、姉の身になることもなく、年不相応に細く、年相応の体重の私だと、彼女のお下がりは入らなかったのだ。
それにお母さんは白い目を向ける。
「蛍、あなた勝手にお姉ちゃんのご飯食べた?」
「食べてないよ。なんにもしてないよ」
「本当に? ほら、雪奈。言いたいことがあるんだったら言って?」
そう言われ、姉は困った顔をしていた。
髪はなかなか切りに行けないものの、入院先の病院には理容室があるらしく、姉は比較的小綺麗に髪を整えられていた。
対して私は、なかなか髪を切ることができず、いつもなんとか鏡を見ながらハサミで切るものの、大概は残念にパッツンと跡がついてしまってみっともなく、ひとつ結びにして下手な散髪跡を誤魔化していた。
姉は言った。
「食べても食べても、全然体重増えないよ」
それだけを姉は言った。
病院で診てもらったら、姉は免疫不全のせいで栄養を食事で摂ってもなかなか入らず、結果として体重が減っているらしい。姉の飲む薬はぐんと増えた。
お父さんはなかなか家に帰ってこられなくなった。
ある日トイレに行こうと、夜中に廊下に出たとき、本当に久し振りにお父さんを見た。
「お帰りなさい」
「ほたー……ただいま」
いつもにこにこ笑っていた印象だったお父さんは、少しやつれて骨張って見えた。私はぐったりしているお父さんに着いていって、なんとかお水を出してあげた。お父さんはぐったりしながら言う。
「お母さんとなんかあったか?」
「ううん」
本当はよくわからないことで当たられていると頭に浮かんだものの、口には出せなかった。口に出してしまったら、なにもかもが終わってしまう。そんな予感がしたんだ。
お父さんは電子レンジでラップにくるまれた食事を温めはじめた。
「ごめんなあ。ゆきが病気になってから、お母さんずっとカリカリしてるだろ」
「……うん」
「お父さんもゆきの入院費用稼がないと駄目でなあ。なかなか帰ってこられないんだ。ほたもちょっとだけ、お母さんに協力してくれないか?」
私は正直、反応に困ってしまった。
お母さん。最近とても怖い。でも、お母さんの反応に姉はとても困っているし、私まで困っていると言ってしまったら、お母さんがますます壊れてしまうような、そんな気がした。
お姉ちゃんのパジャマはいつもどこかのお姫様みたいなネグリジェで、布地だってつるつるとしていて肌触りだっていい。対して私は、どこの量販店で買ったのか薄くて一シーズン着たらすぐに駄目になってしまうパジャマしか、着たことがなかった。
姉の入院やらもろもろの費用やらで、お父さんは仕事を増やさないことにはそれらのお金を捻出できないらしかった。
それを聞いていたら、私は普通に「やだ、お母さん怖い」なんて言えなかった。
物わかりのいい子供でないといけなかった。
「……うん、わかった。お父さんもお仕事頑張ってね」
「ありがとう」
こうして、私とお父さんの会話が終わった。
****
昼休み、友達と鉄棒にぶら下がって遊んでいるときに「ほたちゃん」と声をかけられた。
「なに?」
「もうすぐ誕生日だよねえ。誕生日会やらないの?」
そう言われて、ギクリとした。
お父さんとお母さんに、私の誕生日の話をしていいのかどうか、わからなくなっていた。私が小さく「わかんない」と言うと、「なら誕生日プレゼント渡しに行っていい?」と尋ねられ、それも言い淀む。
お母さんは姉にいつどこでどう感染症になるのかがわからないから、このところヒステリー気味になってしまっていた。特に私と同い年の子が家に入ろうとするのを嫌がるし、通販も受け取りボックスを置いて、絶対に宅配員と直接会ったりしない。
だから玄関で「お誕生日おめでとう」という話をしたら、怒られるんじゃないだろうか。そう思ってしまったんだ。
「ほたちゃん?」
「……ないよ。多分、誕生日なんてない」
「えっ……誕生日祝ってもらえないなんて、変だよ」
誕生日祝ってもらえないなんて、変だよ。
今の私だったら「人の事情を知らずにそういうことを言っちゃいけない」と返すことができるけれど、当時まだいろんなものを諦めきっていない私には、ショックが過ぎた。
鉄棒を握っていた手が外れ、ぼんやりと鉄棒を見上げる。
私、変なのかな。そう考えたら、もうなにも言えなくなっていた。午後の授業でなにをしたのか全く覚えていないまま、私は気付いたら家にいて、「ただいま」と言っていた。
このところ姉はずっとゲホゲホしながらも家にいる。最近は特に学校に行く日が減って、行けても保健室登校しかできていない様子だった。
「ただいま……」
「蛍、お帰りー」
「お姉ちゃん」
「あのねえ、もうすぐ誕生日でしょう? だから、一生懸命お小遣い貯めて、こっそり買ってきたんだあ」
その言葉に、私は喉を鳴らした。
……この辺りで誕生日プレゼントを買うなんて、小さな店が軒並み潰れていく中、ショッピングモールまで足を運ばないと買える訳がない。
「お姉ちゃん……無茶して」
「無茶なんてしてないよ。妹の誕生日プレゼント買うためだから。ほら」
そう言いながら、姉はプレゼント包装された袋を差し出してくれた。そこに入っていたのは、綺麗なノートだった。紙も近所のドラッグストアで買うノートよりも高級感があり、つるつるしていて少し分厚い。
「これ、なあに?」
「日記。これでいろんなこと書いてよ」
「私、日記とか無理だよ」
「じゃあ私に外のこと教えるために書いてよ」
それに言葉を詰まらせた。
姉はしんみりした声で言う。
「私、ゲーム機持ってないから、今流行りのゲームがわからない。ほとんど寝てるから、人気のアニメもわからない。スマホも持ってないから、スマホゲームもわからない。わからないことばっかりで、保健室で友達と話をしていても、なんにもわからないんだよ」
それに私は唖然としてしまった。私は友達としゃべっていても、それなりに話題があった。
今日の学校の様子とか、先生の発言とか、給食とか。
そもそも教室に通うことができず、保健室までしか登校できない姉では、そんな話題がある訳がなく、友達と話していても共通の話題がなかったら会話なんて弾まない。
私はノートを手に取り、ぎゅっと抱き締めた。紙も分厚くて、少し重い。
「……わかった。いっぱい書くから、いっぱい読んでね」
「うん。よろしくね……ゲホッ」
「お姉ちゃん……!?」
私は慌てて台所に走ると、水とピルケース、ゼリーを持って帰り、それをゲホゲホ咳をしている姉に差し出した。
「ゼリー! それ食べて、薬飲んで寝てて!」
「ゲホッ……蛍……ありがと……」
「食べて!」
結果として、姉がこっそりとショッピングモールに行ったことがお母さんにバレ、なぜか私がこっぴどく叱られた。
「蛍! どうしてお姉ちゃんをショッピングモールに行かせたの! ショッピングモールはなにが流行っているかわからないでしょう!?」
「で、でも……お姉ちゃんは自分で……」
「蛍の誕生日なんていくらでも祝えるでしょう!? お姉ちゃんの誕生日は!? お姉ちゃんの誕生日を最優先で祝わないと駄目でしょう! だって、あの子は……」
お母さんは自分で言って、自分で泣き出してしまった。
私は怒られていたのにもかかわらず、必死になってお母さんを慰めないといけなかった。
「……私、誕生日いいから。もう、いいから」
それから、私の誕生日は本当にただの平日になってしまい、今に至るまで祝われたことはない。
私の誕生日を引っ込めたことを気にしたのか、姉を連れて病院に行く際、叔母さんの家に預けた。叔母さんは私の誕生日のことを聞いていたのか、豪華なケーキはなくても、焼き菓子を振る舞ってくれた。
「ごめんね。誕生日だって急に聞いたもんだから、こんなものしか出せなくって……」
「い、いえ……嬉しいです。ありがとうございます」
この頃の私は、もうすっかりと物わかりがよくなってしまい、お菓子を夢中で食べていた。それを見かねたのか、すっかりとこまっしゃくれてしまった満美ちゃんに怒られてしまった。
「ほたちゃん、食べ方汚い。もっと綺麗に食べないとダメ」
「こら、みつ……! ごめんな蛍ちゃん。こいつ最近ずっと口汚くってさ」
「だって。ほたちゃんこんな下品な食べ方してたら、友達いなくなっちゃうじゃない」
そうきっぱりと満美ちゃんに言われ、私は困ってしまった。
友達の家に遊びに行こうとすると、大概お母さんは嫌がるんだ。「なにが移るかわからない」と。だから私は、友達と遊ぶときは公園でしか遊ばないし、当然友達の家でお菓子なんて食べたことがない。
「ここでしか、お菓子は食べないよ」
「えっ?」
満美ちゃんは意味がわからない顔をした。
「お母さん、友達と遊んじゃダメだって言うから。叔母さん家でしか、お菓子食べないし」
「それ……おかしいよ?」
満美ちゃんはいきなり立ち上がって怒りはじめた。
「どうしてお母さんに友達付き合い制限されないとダメなの!? だって、ゆきちゃんはゆきちゃんだし、ほたちゃんはほたちゃんでしょう!? たしかにゆきちゃんは病気にかかりやすくって大変なのかもだけど……どうしてほたちゃんまでそれに全部合わせないとダメなの!?」
「おい、みつ。辞めろ……」
「お兄ちゃんは黙ってて! それ、絶対に伯母さんがおかしいから……!」
そう一気に捲し立てられ、とうとう満美ちゃんは徹くんに「ごめんな」と謝られて引き摺られていってしまった。
可哀想。前に友達から言われたことよりも、強いことを言われたような気がした。
自分の家はもしかしておかしいんじゃないか。足下がグラグラするような感覚を、私はずっと見て見ぬふりをしていたけれど。それじゃあダメだと言われたような、そんな気がしたんだ。
でも……姉は病気で、お母さんがどんどん弱ってて、お父さんは仕事で帰れない。
こんなの、どうすればいいんだろう。そのあと私は、お菓子をどれだけおかわりいただいても、味を想い出すことはなかった。
私が着られないような綺麗なワンピース。履きつぶすほども履けないピカピカの靴。でも、姉は困った顔をしていた。そんな綺麗な服に対して、私の服は萎びた服ばかりが並んでいた。
最初は姉の服がお下がりで私の元に渡ってきていたものの、姉は食べても食べても、姉の身になることもなく、年不相応に細く、年相応の体重の私だと、彼女のお下がりは入らなかったのだ。
それにお母さんは白い目を向ける。
「蛍、あなた勝手にお姉ちゃんのご飯食べた?」
「食べてないよ。なんにもしてないよ」
「本当に? ほら、雪奈。言いたいことがあるんだったら言って?」
そう言われ、姉は困った顔をしていた。
髪はなかなか切りに行けないものの、入院先の病院には理容室があるらしく、姉は比較的小綺麗に髪を整えられていた。
対して私は、なかなか髪を切ることができず、いつもなんとか鏡を見ながらハサミで切るものの、大概は残念にパッツンと跡がついてしまってみっともなく、ひとつ結びにして下手な散髪跡を誤魔化していた。
姉は言った。
「食べても食べても、全然体重増えないよ」
それだけを姉は言った。
病院で診てもらったら、姉は免疫不全のせいで栄養を食事で摂ってもなかなか入らず、結果として体重が減っているらしい。姉の飲む薬はぐんと増えた。
お父さんはなかなか家に帰ってこられなくなった。
ある日トイレに行こうと、夜中に廊下に出たとき、本当に久し振りにお父さんを見た。
「お帰りなさい」
「ほたー……ただいま」
いつもにこにこ笑っていた印象だったお父さんは、少しやつれて骨張って見えた。私はぐったりしているお父さんに着いていって、なんとかお水を出してあげた。お父さんはぐったりしながら言う。
「お母さんとなんかあったか?」
「ううん」
本当はよくわからないことで当たられていると頭に浮かんだものの、口には出せなかった。口に出してしまったら、なにもかもが終わってしまう。そんな予感がしたんだ。
お父さんは電子レンジでラップにくるまれた食事を温めはじめた。
「ごめんなあ。ゆきが病気になってから、お母さんずっとカリカリしてるだろ」
「……うん」
「お父さんもゆきの入院費用稼がないと駄目でなあ。なかなか帰ってこられないんだ。ほたもちょっとだけ、お母さんに協力してくれないか?」
私は正直、反応に困ってしまった。
お母さん。最近とても怖い。でも、お母さんの反応に姉はとても困っているし、私まで困っていると言ってしまったら、お母さんがますます壊れてしまうような、そんな気がした。
お姉ちゃんのパジャマはいつもどこかのお姫様みたいなネグリジェで、布地だってつるつるとしていて肌触りだっていい。対して私は、どこの量販店で買ったのか薄くて一シーズン着たらすぐに駄目になってしまうパジャマしか、着たことがなかった。
姉の入院やらもろもろの費用やらで、お父さんは仕事を増やさないことにはそれらのお金を捻出できないらしかった。
それを聞いていたら、私は普通に「やだ、お母さん怖い」なんて言えなかった。
物わかりのいい子供でないといけなかった。
「……うん、わかった。お父さんもお仕事頑張ってね」
「ありがとう」
こうして、私とお父さんの会話が終わった。
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昼休み、友達と鉄棒にぶら下がって遊んでいるときに「ほたちゃん」と声をかけられた。
「なに?」
「もうすぐ誕生日だよねえ。誕生日会やらないの?」
そう言われて、ギクリとした。
お父さんとお母さんに、私の誕生日の話をしていいのかどうか、わからなくなっていた。私が小さく「わかんない」と言うと、「なら誕生日プレゼント渡しに行っていい?」と尋ねられ、それも言い淀む。
お母さんは姉にいつどこでどう感染症になるのかがわからないから、このところヒステリー気味になってしまっていた。特に私と同い年の子が家に入ろうとするのを嫌がるし、通販も受け取りボックスを置いて、絶対に宅配員と直接会ったりしない。
だから玄関で「お誕生日おめでとう」という話をしたら、怒られるんじゃないだろうか。そう思ってしまったんだ。
「ほたちゃん?」
「……ないよ。多分、誕生日なんてない」
「えっ……誕生日祝ってもらえないなんて、変だよ」
誕生日祝ってもらえないなんて、変だよ。
今の私だったら「人の事情を知らずにそういうことを言っちゃいけない」と返すことができるけれど、当時まだいろんなものを諦めきっていない私には、ショックが過ぎた。
鉄棒を握っていた手が外れ、ぼんやりと鉄棒を見上げる。
私、変なのかな。そう考えたら、もうなにも言えなくなっていた。午後の授業でなにをしたのか全く覚えていないまま、私は気付いたら家にいて、「ただいま」と言っていた。
このところ姉はずっとゲホゲホしながらも家にいる。最近は特に学校に行く日が減って、行けても保健室登校しかできていない様子だった。
「ただいま……」
「蛍、お帰りー」
「お姉ちゃん」
「あのねえ、もうすぐ誕生日でしょう? だから、一生懸命お小遣い貯めて、こっそり買ってきたんだあ」
その言葉に、私は喉を鳴らした。
……この辺りで誕生日プレゼントを買うなんて、小さな店が軒並み潰れていく中、ショッピングモールまで足を運ばないと買える訳がない。
「お姉ちゃん……無茶して」
「無茶なんてしてないよ。妹の誕生日プレゼント買うためだから。ほら」
そう言いながら、姉はプレゼント包装された袋を差し出してくれた。そこに入っていたのは、綺麗なノートだった。紙も近所のドラッグストアで買うノートよりも高級感があり、つるつるしていて少し分厚い。
「これ、なあに?」
「日記。これでいろんなこと書いてよ」
「私、日記とか無理だよ」
「じゃあ私に外のこと教えるために書いてよ」
それに言葉を詰まらせた。
姉はしんみりした声で言う。
「私、ゲーム機持ってないから、今流行りのゲームがわからない。ほとんど寝てるから、人気のアニメもわからない。スマホも持ってないから、スマホゲームもわからない。わからないことばっかりで、保健室で友達と話をしていても、なんにもわからないんだよ」
それに私は唖然としてしまった。私は友達としゃべっていても、それなりに話題があった。
今日の学校の様子とか、先生の発言とか、給食とか。
そもそも教室に通うことができず、保健室までしか登校できない姉では、そんな話題がある訳がなく、友達と話していても共通の話題がなかったら会話なんて弾まない。
私はノートを手に取り、ぎゅっと抱き締めた。紙も分厚くて、少し重い。
「……わかった。いっぱい書くから、いっぱい読んでね」
「うん。よろしくね……ゲホッ」
「お姉ちゃん……!?」
私は慌てて台所に走ると、水とピルケース、ゼリーを持って帰り、それをゲホゲホ咳をしている姉に差し出した。
「ゼリー! それ食べて、薬飲んで寝てて!」
「ゲホッ……蛍……ありがと……」
「食べて!」
結果として、姉がこっそりとショッピングモールに行ったことがお母さんにバレ、なぜか私がこっぴどく叱られた。
「蛍! どうしてお姉ちゃんをショッピングモールに行かせたの! ショッピングモールはなにが流行っているかわからないでしょう!?」
「で、でも……お姉ちゃんは自分で……」
「蛍の誕生日なんていくらでも祝えるでしょう!? お姉ちゃんの誕生日は!? お姉ちゃんの誕生日を最優先で祝わないと駄目でしょう! だって、あの子は……」
お母さんは自分で言って、自分で泣き出してしまった。
私は怒られていたのにもかかわらず、必死になってお母さんを慰めないといけなかった。
「……私、誕生日いいから。もう、いいから」
それから、私の誕生日は本当にただの平日になってしまい、今に至るまで祝われたことはない。
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「ここでしか、お菓子は食べないよ」
「えっ?」
満美ちゃんは意味がわからない顔をした。
「お母さん、友達と遊んじゃダメだって言うから。叔母さん家でしか、お菓子食べないし」
「それ……おかしいよ?」
満美ちゃんはいきなり立ち上がって怒りはじめた。
「どうしてお母さんに友達付き合い制限されないとダメなの!? だって、ゆきちゃんはゆきちゃんだし、ほたちゃんはほたちゃんでしょう!? たしかにゆきちゃんは病気にかかりやすくって大変なのかもだけど……どうしてほたちゃんまでそれに全部合わせないとダメなの!?」
「おい、みつ。辞めろ……」
「お兄ちゃんは黙ってて! それ、絶対に伯母さんがおかしいから……!」
そう一気に捲し立てられ、とうとう満美ちゃんは徹くんに「ごめんな」と謝られて引き摺られていってしまった。
可哀想。前に友達から言われたことよりも、強いことを言われたような気がした。
自分の家はもしかしておかしいんじゃないか。足下がグラグラするような感覚を、私はずっと見て見ぬふりをしていたけれど。それじゃあダメだと言われたような、そんな気がしたんだ。
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