どうも、どうあがいても死ぬ兄です

石田空

文字の大きさ
12 / 25

夜会に参加は必要でしょうか・2

しおりを挟む
 偽乳がポヨンポヨン震えるのはさておいて、馬車は優雅に停まった。
 ミヒャエラに案内され、俺は馬車を降りると、階段を歩いて行く。

「ようこそ、招待状は?」
「はい」
「……ベルガー様は?」
「申し訳ございません、主人は臥せっておりますから」

 すっかり土の中で臥せっているなんてことは言う訳もなく、病欠だと告げると「かしこまりました」と了承して、入れてくれた。
 ちなみにベルガーは死んだ旦那の名字だ。つまり俺は、ここでの正式名称はマリオン・ベルガーとなる。
 てっきり偽乳の谷間が見えるドレスはミヒャエラの趣味かと思っていたけれど、そうでもないらしい。夜会で談笑している奥方も、ダンスホールで踊っているどこぞのご令嬢も、皆谷間をこれでもかと見せつけるドレスを着ていた。
 俺が思わずジト目でミヒャエラを睨むと、ミヒャエラはいつも通りのペースだった。

「今の流行がこういうのですから仕方ないじゃないですかあ」
「うん、そうだね。ミヒャエラ偉いね」
「流行に乗りなおかつ男の娘を羞恥プレイにかけられるなんて、役得以外のなにものでもないじゃないですかあ」
「もうちょっと言葉を包もう? クレープに包もう? 性癖まろび出るのはよくないからね?」
「テヘペロ☆」
「ああ、もう。はいはい」

 ミヒャエラの面白愉快な性癖をどうしてくれようか。
 頭痛が痛い状態になっているそのとき。「ごきげんよう」と声をかけられた。
 クラシカルなダークグリーンにオフショルダーのドレスを着て、尚且つかっちりと谷間を出している少女に声をかけられた。絹糸みたいな金色の髪を流していて、ルビーを嵌め込んだような釣り目がやたらと愛らしい子だった。

「ごきげんよう……どうされましたか?」
「いえ、珍しい方がいらっしゃいましたので、興味本位で。今回はパートナーがいらっしゃらないようですね?」

 どういうこと? と思わず俺はミヒャエラのほうを見ると、ミヒャエラがいつも通り金色の瞳をキラーンとさせながら解説してくれた。

「基本的に夜会は男女ペアで参加するものなんですよぉ。ご主人様の場合は旦那様が臥せってらっしゃいますから、従者たる私以外参加できなかった訳ですが」
「ああ……でも彼女もペアは?」
「あら。私は主催者側ですから。ようこそ、ベルガー夫人。シュタウフェンベルク城へ。私はここの女領主であるウィルマ・シュタウフェンベルクです」

 女領主ってなに? という顔をしたら、ミヒャエラは「たまにいらっしゃるのですよ。世継ぎに女性しかいない場合は、女性が継ぐことが。これだけ若い方が継ぐ例は初めて見ましたが、珍しくはありませんよ」と教えてくれた。
 なるほどなあ……だからマリオンも旦那の名前を使いながら土地転がしをしていた訳か。
 でもこの子も穏健派吸血鬼ってことだよなあ……。
 ウィルマはにこにこチャーミングに笑いながら言う。

「式には参列できなくって申し訳ございません。こちらに嫁いで、なにかと不便ではございませんか?」
「いえいえ。こちらもなに不自由なく暮らしておりますから。ただ、最近うちの領地にグールが出てくるので、これはどうにかならんかなあとは、領地の皆と言っているところです」

 そこでなにか取り繕うのもおかしいだろうと、素直にそう伝えると、にこにこと笑っていたウィルマが、途端に顔を曇らせた。
 ……俺、なにかこの子の地雷を踏ん付けた!? 思わずミヒャエラのほうを見たものの、ミヒャエラは「お静かに、ご主人様」と言うばかりだった。しばらく黙っていたウィルマが「そうですね」と硬い口調で言った。

「パートナーがいらっしゃらないところ恐縮ですが、一緒に踊りませんか?」
「えっ?」

 俺、運動会のフォークダンス以外踊ったことありませんけど!? ウィルマの足とか踏ん付けたらどうしよう!? 俺はおろおろとしたものの、ミヒャエラはにこやかに「行ってらっしゃいませご主人様」と送り出してきた。
 お前、絶対俺が羞恥とドジで悶え苦しんでいるのを鑑賞するために送り出しただろ!?
 などと叫ぶ訳にも行かず、女同士……だとウィルマは思ってるんだろうなあ……で踊りに向かった。細っこい腰を抱きつつ、とりあえずドレスふたりで踊りはじめる。見様見真似だったものの、間違ってはいなかったようで、周りから「素敵!」とかの歓声はなかったものの、無難に無難に踊る。
 踊っていたときに、小さくウィルマが「どうぞこのままでお聞きください」と囁いてきた。
「えっ?」
「歓談の席では誰がどう聞いているかわかりませんから」

 そう囁かれて、ようやくわざわざダンスホールで踊る意図がわかった。
 この世界の技術がどうなってんのかは俺もいまいちわかってないけど、少なくともダンスホールの音楽を奏でているのは合奏団だ。その分厚い音楽を浴びていたら、音楽以外に聞こえるのは目の前のダンス相手だけになる。
 つまりは密談をするのは、ダンスするときが最適解という話らしい。なるほどなるほど。よくできている。

「最近のグールが増えている原因ですが、私もいささか困っております」
「吸血鬼が血を吸ったときに、眷属にならなかったらグールになるんですよね? どうしてこんなに急激にグールが増えて?」

 りんご酒を名産にしている村は、幸いにも拠点を地下に移すことで難を逃れたけれど、それができない田畑だったら困るよなあと、こちらも困っているんだ。
 グールを増やしている吸血鬼がいるんだったら対処しないといけないんだけれど。
 ウィルマは意を決して、口を開いた。

「つい最近、吸血鬼たちの一族のバランスが崩れたんです」
「ええ?」
「……エクソシストにより、穏健派の吸血鬼の一族が根絶やしにされてしまったんです」

 えええええ……。
 俺は少し引きつらせた。この話って、『禁断のロザリオ』本編に出た話なのかな。出てないのかな。
 つまりは穏健派と強硬派のバランスが崩れたせいで、人間イコールご飯の流れが加速して、人間はグールから逃げ回っているという現状になったって、そんな感じか。

「それはまずいね……でも強硬派も、いきなりエクソシストを敵に回ることは……」
「いえ。最近になって、この辺りの担当のエクソシストの組織の首領が代替わりしましたので、まだ若いエクソシストなんです。今の内にエクソシストを虐殺すれば、この地を制圧できると……」

 ……だんだんだんだん、どうしてマリオンが復讐という形で吸血鬼を殺しまくっていたのか、わかってきたぞ。
 これ多分、ゲーム本編に関わる。今のエクソシスト側の首領はたしか、リズを保護しているところの人だったと思う。攻略対象は全員その人の部下だったよな……。
 つまりあれか。マリオンは強硬派を殺して回っていたのは、普通にリズのいるエクソシスト組織に危害を加えられないためにか。でも兄のことを忘れているリズにも、吸血鬼の区別の付かないエクソシストにも通じず、お前むっちゃ治安悪化させてるアカンって感じで殺されたのか。
 それはいくらなんでもあんまりだろ……。
 でもなあ。この強硬派をどうにかしなかったら、どのみちエクソシスト組織が襲撃されるし、そこにいるはずのリズが死ぬ。
 でも俺が目立ったら、エクソシストにターゲットにされる。なおリズは俺のことを覚えてない。
 駄目じゃん。詰むじゃん。

「ベルガー夫人?」

 ウィルマに怪訝な顔をされてしまった。俺はどうにか百面相を止めて「おほほほほ……ごめんなさいね」と謝りつつ、考えをまとめてみる。

「その強硬派を止めるとなったらどうしましょうか。残念ながら、我が屋敷にはあまり戦力が出せないのですが……外交でどこまで持つでしょうか?」
「難しいでしょうね……私も対話を試みたのですが、彼らは人を餌にしか思っていませんから」

 アカンて。それ殺さないといけなくなるけど、殺しに行ったらエクソシストに目を付けられるって。
 俺もウィルマも、どうするよとしばらく踊りながら頭を悩ませることとなってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...